TROIS

観劇後に気合があったときだけ書きます

ロミオ&ジュリエット 死のダンサーについて


本編についての感想をすっとばしてこの役について言及するのもいかがなものかと思ったのですが、R&Jという作品について、他の役については後ほど触れることにしておきます。



ロミオとジュリエットという作品の結末をご存じない方はいないと思いますが、その結末に向けて、彼らの周りには最初から常に死の影がつきまとっています。その影をひとつの役柄として、ヴェローナに住まう他の登場人物らに一切認知されない、台詞を一切発せずダンスだけで死を表現をする存在として舞台に立っているのが死のダンサーです。エリザベートを詳しく存じ上げないのにこんなたとえをしてはいけないかもしれないのですが、トートダンサー的な役割を担っている役なのかなと。ご本家版や各国では女性である事が多いこの役を日本版では男性が演じています。
死のダンサーと言いつつ、ティボマキュにはほぼ絡みません。ほぼロミオの専属「死」です。ロミオソロの時は絡みます。比喩ではなく絡みます。股の間くぐったりロミオの頸を掻いたりストール奪って巻きついたりしなだれかかったりします。でも基本的に全てが自然で邪魔な動作をしているようにはひとっつも見えない。
黒いマニキュア、精気のないように見せるメイク。衣装は上半身は完全に透けていてラメが入っているような布(もう服とは呼べない)、下はぴったりした黒いズボンに腰回りにひらひらしたシフォン生地のような布をまとわりつかせて垂らしてました。2幕で上半身脱いでズボンはそのままで踊るシーンがあるのですが、脱ぐと身体にお化粧しているのもあって彫刻のようで(お二人とも「人間の身体ってこんなにうつくしいんだ」って思うぐらい鍛え上げられてる)、着てる方がセクシーってどういうこと?ってなったよね。
初見の死のダンサーの大貫さんは、ジャンル問わずなダンサーであっさり醤油顔で手足長くて身長高い人、2回目の中島さんはバレエのひとで、お顔はひとつひとつのパーツがわりと大ぶりで大貫さんよりは身長低めでがっちりしてる感じ。恐ろしく正反対なW死のダンサー、やはり両者ともきちんとそれぞれの違いを捉えたい、と思っていたのですが、想像以上のものを目の前に言葉を失いました。そもそもダンスに全く造詣が深くない人間が彼らを称えられる筈がない。
大貫さんは観ている時なにかに似ているなと思っていたのですが、世界一格好良いリュークでした。髪型がそれっぽかったせいかもしれない。あっさり醤油顔のメイクばえっぷり…元々のお顔立ちはきちんと23歳、もしくはやや幼い感じのお顔ですよね。手足が長くてひょろっとしてる(でも筋肉はちゃんとついてる)せいかメイクとあいまって爬虫類っぽさを感じました。なんでその振りを繋げられるの?切れ目がないの?ってぐらいの滑らかなダンス。
ジュリエットの死のところの自分の頸に交差して手のひらを当てて(きゅっと自分で頸を絞めるようなしぐさ)斜め上を見つめるようにつくる恍惚とした表情のセクシーさがもう。

と、個人的初日で結構死のダンサーやばいよ死のダンサーって話はしていたのですが、オペラグラスを忘れた友人にはいまいち伝わっていなかった…しかしこれは序章にすぎなかった、というのが二回目の死のダンサー周さんを観てわかりました。一日目の大貫さんも素敵だなと思ったのですが、周さんの吸引力と言ったらなかった。きっと好みの問題であって、よしあしの話ではないのですが、その違いを的確に伝える言葉を持たないのがほんとうに残念でならないのですが、次にどんな動きをするかわからないから座りこんでぼーっとしているように見えるだけの時も観ていたいというかもう背を向けてそこに立っているだけでいいですというか。初登場時からその異質さ、美しさに目を奪われて、彼が出ている時はもう完全に死のダンサーロックオンでした。あんなに全身からなにかがだだもれているひとを観るのは、初めてではないですが久々でした。
人が頸をぐるりと一周回すだけの動きにこんなに目を奪われてしまうなんて想像だにしなかった。喉仏のあたりをずっと観てしまう。ロミオとジュリエットのAimerの際はもう結婚式をあげているふたりをまともに目にできていないのが現状です。だいたいいつも鉄パイプで組まれたセットの2階部分にいる死のダンサーを注視しております。
もちろん静止しているところだけでなく、踊っているところが一番素晴らしいのですけれど! 180度開脚して、上半身をゆっくりと倒して、その少し前に立ちつくして歌うロミオにじわじわと手をのばしていく姿とかももう。ピルエットのぶれなさは大貫さんにもいえることでしたけれど、振りつけはまったく一緒の筈だったのに、初日の「僕は怖い」では死のダンサー素敵だなあぐらいだったのが、2回目の周さんの死のダンサー時はもうこれこんな衆人環視の中でやっていいダンスではないでしょう? 子どもは観てはいけないものよね? って顔を覆いたくなるぐらいセクシーだった。オペラグラスでガン見したけど。育三郎のお歌がとてもよいBGMに聴こえた時点でもう。あまりロミオ観られなかったので、全体を観たいならこの組み合わせはいけないのかもしれないなという結論に友人と達しました。

組み合わせのせいもあったかもしれないけれど初見のりなジュリエットが亡くなった時は思わず泣きたくなるほどかなしくなってしまったのに、2回目のロミオとジュリエットの最期ではもう完全に死しか観ることができなくて、ふたりが手をつなぎ合って倒れるあの霊廟の石の後ろに立ちながら、片手を頬に、片手を腹部のあたりにそろそろとずらして笑みを浮かべる周さんの恍惚とした表情がもう完全に死の勝利をあらわしていて、ひとつのうつくしい結末、絵画のようでした。危うい表現かもしれないけれど、ふたりの死によってこの物語は完結したんだなあと思ってしまった。そう思わせる表情、動きが死によって表現されていたということで、まあ完全に台詞はないので受け取り手次第なのでしょうが、もっと観て考察したい役柄だなと感じました。


友人とGQ鑑賞会をしたせいで歯止めがきかなくなっています。きっと次のGQ公演は観に行ってしまう。