TROIS

観劇後に気合があったときだけ書きます

ミュージカル『ドン・ジュアン』3


▼プレイボーイぶり
アンダルシアの美女の扱いを見ても、ジュアンはじゃじゃ馬ならしがお好きで、飼い慣らすのに少し骨がいるような気の強い美女相手じゃないと燃えない、だから手の内に入ってしおらしくなったら捨てるんだな、という流れが分かりやすすぎる。おそらく何百回と繰り返してきた光景のうちの一つなんだろうと頷ける。彼女と競るようにして向き合って踊る、力関係が拮抗しているシーンからの、捧げた薔薇の花を投げ捨てられて、気の強い女は嫌いじゃない(と思ってそうな顔)、ギア二段階目オン!の流れ。おれと踊れ、と彼女を口説くあの低音の艶は、いま思い返してもゾクゾクもの。あの調子で囁かれたら、踊るだけでは許されまい。
カリ様の表情がとても豊かなので、初めの気のない素振り、いやがる振りをしているところからの、踊りが進むにつれて彼にどんどん気持ちが傾いてついに屈服させられる、という心の動き、経過が手に取るように伝わる。ジュアンがアンダルシアの美女の背後から腰を手を回して太ももを抱え上げる乱暴さと、ねっとりとした目つき手つきの緩急。

▼騎士団長さんの面倒見
騎士団長の亡霊のジュアンへの言葉や行動は、結局悪意あってのものとは思えない。彼はジュアンにしかみえていないのだからジュアンにとって印象深い姿で現れてきているだけで、本当は騎士団長の魂が形を成したものというわけではないのでは?という話を観劇後にしていた。世界は愛に溢れているのにお前だけがそこにいない、という台詞も、だから愛を知って早くこちら側へ来なさい、というふうにもとれる。ジュアンに愛を思い知らせて、愛を通じて彼の中に眠る様々な感情を目覚めさせるために天から下された存在のような。

▼どピュアかよ
そもそもジュアンさん、快楽しか追ってこなかったせいで、人の心の機微に疎すぎる。だからこそスイッチが入った途端の1人に対する気持ちの重さが、見たからにコントロールを知らない噴出量。マリアと出会った直後の、いままで下半身でしか考えてこなかったような男の「愛してるドン・ジュアンと言って欲しい」「彼女の名前をこの肌に刻もう」の夢みる乙女具合と瞳のまっすぐさ。
そして、愛が嫉妬を連れてくるなんて知らなかった!と苦しげに吐露する、マリアに婚約者がいたと告げられた直後の曲は、流石にそこは知っていると思っていたけれど?!とカマトトぶりにおののく。そしてカマトトではないことに、この人本当にいまのいままで自分本位で相手の気持ちを考えたこともなくて、来る者拒まず去る者追わずだったのか、と呆れてしまう。同時に、初めての感情にもがき苦しむ姿がまた、どれだけ初心なのかと驚くような剣幕で、真剣そのものなのが見てとれるせいで、ついついかわいいと思ってしまうし、捨てておけないやつめ、という目で見てしまう。かわいい。