TROIS

観劇後に気合があったときだけ書きます

ミュージカル『ドン・ジュアン』その1


初日観劇後の走り書き(主に主人公について)

インタビューや生田先生との対談で想像を巡らせてワクワクドキドキしていたけれど、人としてわりとどうしようもないダメさ、クズ男であると同時に、女たちが彼を求めてやまないわけがひしひしと伝わるような造形の主人公が、周囲を巻き込んで踊り狂って最後にばたりと倒れるような物語。

1幕の色っぽいシーン、ある意味自暴自棄ともとれる振る舞いにもわー!クズーと合いの手を入れつつカルロの横やりには「いまは彼の放蕩ぶりを堪能するターンなので学級委員は黙っててよ!」と思うほどに見惚れ、1幕ラストから2幕への、マリアと出会って愛を知った彼の生まれたての雛のような無垢さ、むき出しの感情表現、その素直な表情、様変わりようはもう、たまらなかった。小さい子が花を一輪差し出すような好きの伝え方を、時間を巻き戻して初めて学んでいるような。実のお母さんへの愛情の向け方をいきなり間違っている段階で、大人の階段を何段一気に駆け上がってしまったんでしょう彼は。そのとばしてしまった部分を、マリアといっしょに改めて踏みしめて降りては上って、を繰り返しているイメージ。
マリアに婚約者がいるとわかったときの反応も、いままで女たちにしてきた仕打ちを思い返せば他人のことを責められる立場ではなかろうに、そう突き放すのもかわいそうなくらい、怒りのなかに宿る悲しみの強さが伝わる表情や歌での嘆きに、かわいそう、という気持ちが湧いてしまう。相手の気持ちをいままで考えてこなかったからこそ、自分のものとして落ちてきた感情に初めて、多感な少年のように動揺するのだろうから、すべては自己中心的な生き方に因るものなのだろうに、誰も教えてくれなかったのね、とこちらが心を寄せてしまう。いい大人を気持ちの上で甘やかす。世界は愛に溢れているのにお前だけそれに気づいていないとかいわれちゃう男に。ちょろまかされているのか。
あんなふうにマリアの膝でくうくうと眠る、よけいな色に染まっていない寝顔(衣装のことではない)を見ると、このまま幸せになって欲しいと思うのと同時に、いままでの彼の行いを思い返して、イザベルが決闘直前で口にするように彼の行き着く先を見届けたい気にもなる。罪つくりな男です。

1幕の色っぽいシーン、注目すべき点は多々あれど、アンダルシアの美女の生腹と言わずいたるところを撫で回すジュアンさんとふたりのダンスは、もう完全にはいってるよこれ激情のずんはな並みのアレだよーとすごく興奮しました。男役だからなのか、カリ様だからなのか、娘役さんとの色っぽいけど上品さが勝ってしまうそれとは、もう種類が別の色気のくどさ。露出度だけではないなにか。
途中で現れたエルヴィラが、裸みたいな格好の女と踊るのがそんなに楽しいの?!と激怒していたので、あっまだただのダンスシーンだったのかと我に返ります。しかし騎士団長の娘とのお楽しみシーンがわりとフワフワした振り付けだったのに、ただのダンスのアンダルシアの美女とのほうが直接的だなんて、振り付けの問題とはいえ、あの宝塚の舞台上でその空気感を作り出せる2人がすごい。

細かいところで色々気になったなかのひとつとして。
ラファエルの、手が荒れちまってかわいそうだ…なんて言いつつ彫刻をやめさせようとする、相手の大事にしているものをまるで尊重しないやり方に、マリアあんたそれやめといたほうがいいよ、と観客に思わせておいて、ジュアンに彼女が仕事に打ち込む姿に見惚れさせる、彼女の好きなものを尊重させる、だからふたりは惹かれあった、という対比かと思っていたので、そのあと出来上がった(一応最後の仕事になる)彫刻をジュアンのためにためらいなく金づちで壊す彼女に結構びっくりしました。愛によって人は変わる、の方に重きが置かれている説がナンバーの趣旨として強そうなので、ラファエルはモラハラ男として描かれているのではなく、単にマリアに彫刻を捨てさせるだけの魅力が足りていないだけだったのか。まあ彼女の愛を失ったとはいえ、関係ない人間に暴力振るってしまってるし、マリアどちらに転んでもだめんず確定ではある…

他に、メインテーマに肉薄した部分だと思うのだけど、お前(ジュアン)がいま失おうとしているものにあいつ(ラファエル)は動かされている(だから負傷して、殺される際でもなお、彼は戦いをやめない)、という騎士団長の亡霊の言葉に動揺するジュアンの構図が印象深かった。ラファエルのマリアへの愛といっても、前述の彼女の仕事への理解のなさをみても、それって相手のことを本当に考えてるの?それは愛なの?と個人的には首を傾げる部分が多い。でもそれが相手にとって受け入れられるものかどうかはまた別として、愛は愛と、少なくともこの作品内では認められているのかなと。エルヴィラの愛しかり、その人なりに真剣にひとりの人に向けている気持ちは、ひとつの愛の形として権利を得ている描かれ方に見えます。アガペー(気持ちだけの動きは全部こちらに入るのか)とエロス…?
しかし騎士団長、娘を娼婦にされかけたのにやってることは結構な世話焼きさんでもしかしたらただのいい人疑惑が。