TROIS

観劇後に気合があったときだけ書きます

宝塚 雪組公演 浪漫活劇『るろうに剣心』


タカラジェンヌの二次元への寄せ方、キャラの再現度については楽しみしかなく、しかし小池先生のオリジナル脚本ってどうなのかなと思っていたところ、うっすらとしたダメな方の予感があたってしまった印象です(ムラ2回観劇現在感想)。

1幕でのキャラが出そろうまでの段階では、いやここで怒ってたら宝塚ファンやってられないよ程度の、これから何が起こるか2幕の展開を待ちたいと思うような内容だったけど、2幕を見終えた後はここまで引っ張ってこれかい!と言いたくなる薄さ・雑さに、フィナーレがなかったらたぶんぷんぷん怒ったまま帰っていたからフィナーレシステムは偉大。

舞台を見慣れないライトな原作ファンが一回見る分には、剣心漫画から出てきちゃった/薫かわいいよ薫/蒼紫様二次元すぎる/観柳イケメンすぎるけどゲスさの再現度サイコー等々、漫画のよく見知ったあのキャラが三次元化して目の前で大活躍しているという、ただそれだけで満足感を得られて、特に不満を抱かずに帰るのかもしれない。でも重めの原作キャラファンが見たら「飛影はそんなこといわない!」的怒りをおぼえるであろう、展開をスムーズに進めるためにキャラ改変(アホ化)している箇所があるし、それは原作をよく知らない観客でも全編通した際にひとりの人物としての言動の一貫性のなさに首をかしげる箇所だ。るろ剣の世界についてはあまり知識はないけれど、元々テニミュから演劇・ミュージカルの世界に足を踏み入れた人間なので、2.5次元ミュージカルの組み立て方には少し敏感です。
この雑さは宝塚とるろうに剣心という漫画の世界観の折り合いの悪さではなくて、作・演出家の原作キャラに対する理解の薄さ・オリジナルキャラへの思い入れのなさ、こんなもんだろ感が透ける物語運びの処理によるものだと思う。漫画だからこれくらいでいいだろと思っているのだとしたら、それは作り手のおごりなのでは。
と思ったのだけれど、もはや漫画的「ま・いっか☆」な処理、WJ連載漫画おなじみの超展開を意図的に加えていると開き直られたら返す言葉がない。

赤べこソングは娘役の出番確保だよ!観柳も番手的に一曲歌っておかなきゃね!くらいのことが飲み込める程度には宝塚ファン寄りなので、宝塚システムに寄せるための見どころ増幅による場面つなぎのショー展開には寛容であっても、脚本の粗を強引に埋めるための人物の性格改変には狭量です。

?物理的にヘンに思える
・阿片の香りが判断できるのにパボの実のお酒をあっさり飲んだ剣心(お酒も阿片の香りがすることは恵が確認)
・阿片入りの酒は剣心を人斬り抜刀斎に戻す効能があるのか(万能薬化)
・「神経の強さ」ではどうにもならないはずの阿片の酒を飲んだくせにあっさりと精神力で効能に打ち勝つ剣心(おじゃんぷ主人公様だからです!と言い張られたら言い返せない)
・(薫が「甘い」といって剣心にはむせるほど強かったお酒は同じものなのか)→薫の飲んだワインに「パボの」と但し書きがあったか思い出せないので確認中

?展開の都合で馬鹿キャラにされている(キャラのブレ込み)
・恵「外国人だと思っていたわ」
・阿片の酒を飲んだ危うい状態の剣心を「剣客としての強さと神経は別」と言って診ておきながら、薫のやきもちによる横やりであっさり放置する恵。
・ジェラールの甘言にそそのかされてあっさり渡仏を承諾したあげく、父の形見の大事な道場を一時とはいえ剣心に任せようとする薫。
・いい女だし、で阿片を作っていた大罪人恵をあっさり許す斎藤。
・あっさりと阿片の酒を飲んで薬漬けにされたあげく恵に助けられて回復、剣心助かったよとか言っている井上薫ら。

・地獄に落ちてもいいと思っていたぐらい愛していた女をわが身可愛さに人質に取るジェラール。

ひとつひとつは「気にすんな!」と背中をバシバシ叩かれてしまう程度のひずみかもしれないけれど、積み重ねれば結末段階ではもう歯抜けのジェンガ状態になってしまう、ご都合展開のめじろ押し感。見落としがまだありそう。

そもそも、わざわざ原作にはいないオリジナルキャラとして作った、(宝塚としては)二番手が演じる大きな役である加納惣三郎という男にいったいなにをさせたかったのかわからない、というところがこの物語を「で、なにがしたかったの?」と言わせてしまう大きな理由の一つだと思う。キャラクタ発表時は、過去に愛していた女を引きずってる役という触れ込みのおいしさにワクワクしていたのに、蓋をあけたら「過去に(一方的に)愛していた(が実は相手側からは拒否されていた)女を引きずっている役」だったなんて、だめな意味で意外性がありすぎる。そういう設定は序盤で斬られて死ぬ役や、四天王の中では一番最弱のゲス野郎あたりに振ってほしかった。
しかもその、辻斬り強盗をしてまでひかせようと思っていた愛おしい女を、自分が逃げるために人質にしようとしていた彼はどのツラ下げて「彼女のためなら地獄にも落ちたでしょう」なんて言ったのだろうと思ったけど、もしかして本人は本気でそう思ってるとしたら、大嘘つきか性格が大破綻、あるいは何かの病の可能性がある。と言動の意図を肩を掴んで揺さぶって確認したくなるくらいの掴めなさ。でも多分大した底の深さもない、その場しのぎの卑怯なくず野郎なんだろうと、深堀する意欲が失われてしまう。登場段階で鮮やかに見せつけたくず野郎ぶりをまったく変えずに明治維新後に再登場する、見た目と社会的地位だけ手に入れた中身の成長のなさ、小物感にしょんぼり。やってることは最低だし明治政府を転覆させたいと大口叩いているわりに、理由付けのしょぼさに彼の夢を応援できない。小池先生作品に出てくる悪役だから、とりあえず世界征服を口にしてみたとかでは駄目です。
女への執着も口先だけのポーズにしか見えないし、それは演者の熱量のなさではなく、上記の通り、冒頭の最低な振る舞いから推し量られてしまう。剣心への執着心も、最初にあった頃からずっと狙いを定めて探し続けていた、というのではなく、偶然再会したからちょっと唾つけとこうくらいのつもりがなんだか一人で勝手に盛り上がってしまった、くらいのなりゆきまかせ感が否めない。そもそも剣心と最終的に大立ち回りをする役が小物だったら、主人公の見せ場が映えないし、それなら蒼紫との対決場面で終わらせておけと思ってしまうような人物を、物語のラスボスとしてもってくるものじゃない。なにがしたかったんだ加納惣三郎・ジェラール山下。ジェラールくんはもっと行間を読めよ!以前に、そこまでひとを惹きつけるほどの、キャラとしての厚みがないと思いました。貧乏人から成り上がった苦労性のゲスという意味では、原作キャラの観柳のほうがキャラ立ちしているしコミカル要素もさらっているので、ジェラールは彼を馬鹿にする前に自分の足場を確かめるべき。


○好きなところ
・フィナーレの、イケメンすぎるのと奇抜な衣装デザインできらめきすぎるのとで全く隠密行動とれなさそうな忍者たちの男役群舞で、センターをはっているとき望海さんがオーシャンズフィナーレを彷彿とさせる雄々しいかけ声をあげていて、ここは花組か!?とうろたえた。
・まなはる瓦売りとあすくん新聞売り。あすくんに小林少年@明智小五郎の事件簿をやってほしい。
赤べこ娘が粒ぞろい
・血風録の加納惣三郎の殺陣。冒頭の盆を使った場面展開の見せ方にはわくわくしたので、あの調子で舞台セットをがつんがつん動かしていたらちょろまかされていたかもしれない。
・早霧さんの剣心のキャラにはブレがないという救い
・朝風センパイのオムレットコックのいかがわしさ
・若かりし頃のはっち山県さんのシケ