TROIS

観劇後に気合があったときだけ書きます

5/26 宝塚雪組『アル・カポネ―スカーフェイスに秘められた真実―』

手にした葉巻をベンの顔に押し付けるのか、ぐらいの距離まで近づけてから、煙を吹きかけるだけにとどめるいじめや、壁に葉巻を押し付けて消すのも見たかったけど、「殺れ」とか「民法、刑法、刑事訴訟法」(空中を葉巻で指しながら)が見られたのでもうそれだけでもいい気がするなと改めて思ったACT初日。メアリーがショーガールの格好で初登場場面、ドラマシティではヒュー!くらいのノリだったのに、雄々しいぎらぎらとしたなまなましい目つきに見えて息をのんだACT初日。
前三つの記事と内容重複しまくっている気がするけど、備忘録の三文字を振りかざす。

アルカポネさんはなんて強欲な人なんだろうと思う。本当に奥さんと子どもがかわいくて寂しい思いをさせたくなかったら、あんな職業さっさと足を洗って抜け出さなきゃダメなんだから、ファミリーの絆なんてほっとけほっとけ、とけしかけてしまいたい。それなのに望海さんのアルが「だが俺にはファミリーの絆がある 裏切りは許さない血の絆だ」とか歌うと「寂しい思いをさせるな」とかしみじみせつない声で言われてしまうと「あなたがあなたでいてくれさえすれば、私はそれでいいわ」だとか「心はいつも、あなたと共に」だとかしか口にする以外の手立てがなくなる。それしか道はないみたいに言わないでよなんてずるい男だ!でも腹の中でてへぺろをしているようなひとでは決してないことは知っているので、彼をなじるより先に運命を一緒に呪ってしまうという。
「パパいつ帰ってくるの?」「お前が大きくなったらな。それまで、お前がママを守るんだ」「うん…!」「よぉし」の流れのよき父具合にもしてやられます。

実生活で待つ女の気持ちなんてわからないし、わかりたくもないような人間であっても、舞台上の夢を追いかけている男(役)に向かって「あなたの時間は、今はあなたの夢のためにある」@宝塚BOYS みたいな言葉をかけてしまいたくなる、それが宝塚なんだなとようやく理解が実感を伴ってきました。リアル男性が口にする「男の浪漫」なんてたいてい扱いに困るもので、早急にちぎって投げてしまってよし!という場合が多いわけですが、宝塚において「男の浪漫」というものは、実社会に置いたときの周囲の人への実害を切り離して記号として捉えているもの、そこを考えさせないもの、男だけに気持ちよく酔わせておくにはもったいないくらい、虚構の世界の産物として美しく、都合よく、それなのに心に迫るものなんだなと。素材の調理方法やお皿への盛り方を教えてもらった気持ちです。
自分の人生において「男子一生の夢」が破られた男の慟哭に心揺さぶられる瞬間が発生するとは思ってもみなかった。しかも相当あくどいことしてきたマフィア、自業自得でしかない理由で告訴された男の命運のゆくえを手に汗握って見つめてしまうなんて。「屍を糧に築かれた栄光 穢れた人生と人は言うだろう」もわりと文字にすると目にうるわしいけれど、バックグラウンドがきちんと伝わってこないと定型のぺらぺらな言葉だなあと思うのに、望海さんのアルが口にする時に一気に加わるその厚みに、私が彼を裁く側には絶対なれないなと直感する。客席で見つめているだけでもう、毎回謎の重圧に押しつぶされてしまいそうになる。「進むべき道を 行くべき未来を 断ち切られて」の悲痛さにはごっそりなにかがもがれるかと思った。

ACTの仕様かマイク調整の問題か、ドラマシティでマイクオフで皆がやっていたアドリブがマイクに入ってしまう場面多発で、聖バレンタインデーの虐殺で助けたソニーを抱きしめながらのアルの「怖かったな」がとてもクリアに聞こえて弱りました。わざと相手が言ったことを繰り返したり、相手が思っているであろうことをあえて口に出して、わかってるよ、という意思表示をすることで信頼を生み出すやり方……と分析しつつ、観ながら湧きおこった気持ちは「パパー!」なわけですが。
クラブの場面でのトーリオさんの、アルのカナダ産バーボンの説明への「そっかぁ〜」は、50万ドル詐欺に至るまでのトーリオさんの愛すべきやや抜け作具合の裏打ちとなってしまうのでマイクオフ必至です。