TROIS

観劇後に気合があったときだけ書きます

花組『オーシャンズ11』










花組オーシャンズ11』を観てきました。3回ゆきました。これからの観劇計画がしっちゃかめっちゃかになるくらい、宝塚におちました。

最近周囲から噂を漏れ聞いているらんとむさんという方のだだもれる色気をあびてきたい、という不純な動機で手にしたたった一枚の薄ピンク色のチケットに運命を狂わされたからです。いつどんなときでも落とし穴はどこにあるかわからないからうっかりはまってしまうものなのだ、ともう観念しています。手元にはバウDVD1本と大劇場DVD2本、スカステ開通が待ち遠しいです。
英伝スタンプひとつ押されてできていた借カードがようやく正式なものになったような気持ちで、でもここ数年、2011年から毎年小池せんせいの術中にはまって修羅場ラバンバ立ち回ってることを考えるとあながち唐突なことではないのかなとも思います。おれの人生風が吹けば当てるかもしれない!!日比谷ヴェガスはまごうことなき運命を変えるFATE CITYでした。

映画も未見のまま、ももたろうみたいな話だよ、という友人各位の説明をうけて頭にはてなをみっつぐらいつけて向かった東京宝塚劇場でしたが、あんな色気まきちらしてるももたろうはいやだ、というくらい、らんとむさんのダニーはたいそう魅力的な非実在おじさんでした。彼の胸元があいているとなんだかいけない気持ちになるけれど、期待しているのは谷間ではないというこの倒錯……と思っていたのは初回だけで、だって男役だもん、という一言で2回目以降は気持ちの処理をすませています。 熟練工のおじさんのごとくスマートなエスコートももちろんできるけれど、心に少年をかっている、みたいな殿方に弱いのは世のおきてのようなもので、「やんちゃな男の子がそのまま大人になったような」その見た目や女性の扱いのスマートさと銀行強盗という発想の子どもっぽさのちぐはぐな糸が、彼の魅力を織りなしているのかもしれません。「あの頃の私」の「待ってた男は風をよけて〜♪」のコート脱いで雨にぬれぬようテスを庇うダニーおじさんにはこの!24年組を体現しやがって!!と悪態をつきたくなります。
妻・テスの為に行った詐欺で刑務所に入って数年、仮釈放で外へ出てきたと思えば、今度はその妻に結婚を迫るヴェガスのホテル王ベネディクト相手に銀行強盗を計画、彼自身に恨みがある人間単にお金が欲しい人間、ばらばらな動機の仲間をひとつにまとめ上げて作戦を堂々決行、見事成功させてしまう、という、どっちが「本物の悪党」かわかったものではないこの物語ですが、11人の仲間が一丸となってひとつのことを成し遂げる、というそのチーム男子ぽさ、鮮やかな手口にうまく丸めこまれてしまう。それはもちろんダニーおじさんひとりのお手柄ではなく、ひとりひとりキャラの立った11人の仲間のせいでもあります。
ダニーの昔馴染み腐れ縁のラスティはひょうひょうとした軽さと安定感をあわせもち、自分の経営していたカジノをベネディクトに買収されたルーベンおじさんは渋い魅力、同じくベネディクト絡みで仕事を潰された元マジシャンのバシャーさんは「いきてるうちに恋をしよう♪」と歌うのがお似合いの、パトロンが数人ついていてもおかしくないような多方面に色目を使って生き抜いてきた様子が見える女たらし、バシャーさんがマジック指導をする雑技団一のテクニシャンでヨーヨー使いのイエンちゃんはピーターパンを思わせる永遠の紅顔の美少年ぶり、イカサマディーラーのフランクはウェーブがかった髪と浅黒い肌で斜に構えた態度、ハッカーリヴィングストンはかわいいギークボーイ、映像加工が大得意なモロイ兄弟は喧嘩はするけど仲は良いチップとデールのよう、元カリスマ詐欺師のソールは一歩引いて皆を見守る眼があたたかく、でも時々見せる茶目っ気たっぷりの様子はまだまだ現役、親の名前が重荷のライナスくんは手をさしのべたいようなほっておけなさとうりうりといじめたいようなかわいさを併せ持つ。このメンバーが揃って、だれかひとりでも、ちょっとでもひっかかるところが見つからないようなお客さんはいないでしょう。
全編通してどの楽曲もとても魅力的で、1幕はじまってすぐの、首と腰のあたりから客席の婦女子を一網打尽にするビームが出ているようなダニーおじさんのFATE CITYもさることながら、仲間が集まってこれからいざ決行!と盛り上がる1幕後半にかけてのJUMP!〜生きてる内に〜JACKPOTの3曲の流れは見ていて息つくいとまもないほどの楽しさです。特にJUMP!は、いたいけな青少年に、犯罪の片棒かつげよ!ってどつく歌だよなあ、「ライナス、お前は銀行強盗の柱になれ!」という歌に違いないとは、本当におじさんたち……と思いつつも「だけど気持ちだけは折れたことがない なぜっていつも言い聞かせてるとぶんだラスティ!」というあの流れに、きいているこちら側までなにか乗り越えがたい壁をJUMP!できると勇気づけてくれるような曲だなあと、11人が勢ぞろいして肩を組んで脚を振りあげる姿にも思わず笑みがこぼれます。テニミュでいうとOn My WayやFGKSと見せかけてThis is my bestです。あるいはおれたち〜横、一線〜♪ 生きてるうちに、は生きてるうちに金使うヨ〜使うなら今夜!と歌う満面の笑みのイエンちゃんに、輝く笑顔は写真に残せるけどあふれる涙はいまここでお前に伝えるしかない、という気持ちになる、彼とバシャーさんが組んだら有り金全部むしりとられそうだな、とそのかわいさに怯える歌、JACKPOTはいやがおうなしに気持ちが高まりながらも、どいつもこいつも自分の人生を惜しげもなくBET!できるほど肝の据わったひとばかりであることを再確認させられて登場人物の軒並みトンデモ感に震える歌です。世の中には札束ではたかれたい人とはたきたいひとと、胸元にねじ込みたい人と首にかけたいひとがいる。

と、チームイレブンの皆さんもたいへんにかわいらしいのですが、私がこの公演でいちばんはまってしまったのは、そんなJUMP!を歌ってやる仲間は彼にはいままでいなかったのであろう「ついに俺の人生が始まった」といえるまで、自分のものにならない人生を生きてたベネさまことテリー・ベネディクト氏でした。らんとむさんの頬がシュッとしてるところに心を奪われていた筈なのになんてこったい……と頭を抱えましたが、落とし穴はいつもあなたの眼の前に。らんとむさんは跡部なんです。存在感と影響力パフォーマンス力において、という結論に今は達している。メス猫どもォ!って言われたら無条件に悲鳴をあげるしかない、誰が一番好きであれ、声をあげることが許される安定感。背負った羽飾りの豪華さはらんとむさんのオーラが具現化してるだけだからなんらおかしいことはないのだ……
話を戻しますと、目的のためには手段を選ばない若き野心家、かつ策士策に溺れるひとを好きになる系譜はもういまにはじまったことではなく、そう気づいた時には既にベネさまにおちていました。派手なカジノのイルミネーションの影で泣くのは女子供だけで、大人の男になった俺は違う、と思っていろいろなものを振り切っていそうなベネさま。汚い手をせこせこと使うのではなく、ベネさまは自分の立場をよくよくわかっていて絶対引き返す気もなく、負け犬に戻るくらいなら自分のお城ごと心中する覚悟であろうよ、とも思うし、同時に一度ボロ雑巾になってもはじめから折れているぶん泥水すすってでも這い上がる覚悟も含まれているのでは、とも思う。どちらにせよ彼は自分のつくった道が間違ってるなんてひ とっつも思ってない。そのやり方を支持するしないではなく、彼の持つ精神の高邁さと美学に惚れ惚れします。「今更綺麗事を言ったら、神さまに笑われるだろう」と彼は自分のやり方にイメージアップもチェンジもなにもないのだと切って捨てる。

地獄に喝采を悪魔に勝利を!というような、いわゆる品性を問われる、人間の腹の底が露わになっているような歌詞を明るいメロディにのせている曲が好きなので「夢を売る男」はそういう意味でとても好みでした。かつベネさまの半生が描かれ、演じる望海さんが奥行きが見えるような歌に仕上げられたところ。それまで表立っては笑顔のバリエーションしか見せていなかったベネさまが「スーパーマンの登場か!?」から一気に突き抜けてゆく。表情の豊かさから伝わるもの、「金があれば地位が買える♪」で内胸ポケットから出した札束をびらびらさせてテーラーに追わせているところで見せる、あの下卑た笑みといったら!どんな手も使う、で左手の甲を前にかざしたまま小指から親指まで力いっぱいいれて握りしめるよう折ってゆくその手を見つめながら、どんな手ってこの手か!このうつくしい手か!!と思う。
ディズニー映画の悪役のようなコミカルさを演出しつつ、それでもラストの彼のドスをきかせた「か・ち・の・こ〜る〜の〜だ〜!」の凄みは、ちょっとやそっとじゃ折れない気持ち、気迫を見事に表していて、息をのまれます。ばきばきに折りたい気にもさせられるそれは、断固として貫き通す、という意志の強さが見えるからこそ、過去最高額の1日分の売り上げ掻っ攫われても心折れないベネさまだからこそ抱くもの。たとえ地球が破滅する時も生き残る自信満々のベネさまのその自信は突き崩されるためにあるのよ。
彼のやり口はあくまで「法律すれすれ」であってその一線を侵しているのではないように思えてくると、どちらが、誰が被害者かは、かなり曖昧になってきます。それでも最高額とはいえたった1日分の売上を調整できぬようなベネさまの采配ではあるまいし、保険はかけていたでしょうから、問題は踏みしだかれた彼のプライド、それすらきっと自分で拾い上げて自分でつなぎ合わせるひとでしょう。トップのくせに全部自分で手を口をださなければ気が済まない、どんど構えていられなさは、彼のみみっちさ神経質さと、大学出エリートコースではなく叩き上げ、現場主義というところからきているのかもしれない。ドアボーイ時代から下積み経験してたということは生い立ちから考えて当たり前だろうけれど。コンプレックス克服のために必死で社交界のパーティやらなにやら出て、初めは慣れずに恥をかいたり辛酸をなめつついろいろ学んだのだろうな、いろいろ……と思うとどんどんかわいい存在に思えてくるベネさまです。愛してる…より可及的速やかに!や俺のために!等々オラオラしてるほうがニヤニヤ見てしまう。しかし、テスに1度返されたリングをキスしながら絡ませた手の中に握らせるという流れには、ちょっとオペラグラスを持つ手がふるえました。
優雅でお洒落なセレブとストレスだらけの一般ピープルどちらを相手にしたいのかわからんベネさまが、エコかつ昔を再現したような懐かしいショーを売りにするPARADISOのクオリティを高めれば高めるほど、彼の父親が身を滅ぼした時代のカジノ、ホテルを再現したようなものになるのではと友人と話していてはっとしてしまった。ベネさまはマゾなのか、上書きをしたかったのか。それでも母に手を引かれた幼き日のじぶんに売る夢は持ち合わせていない人。
彼がはじめに口にしたエデンやアダムとイブというモチーフを、ラストでダニーおじさんとテスにかっさらわれる皮肉といったらなくて、それでこそ清々しいヒールっぷりだなと思いました。ガラスの小部屋にテスが入る場面での、なんだ!なんなんだ!という動揺ぶりもこれでこそ悪役…とあたたかい眼で見つめたくなる、かわいく魅力的な人です。

上記のように本編も本編で堪能し、フィナーレも望海さんのベネさまだと思ってみると大変な未練たらたら負け犬ソング、しかし美声ソロからラストまでたっぷり味わいました。フィナーレCのらんとむさんのハアアアアアアアッ!の掛け声のところから楽しすぎてわけがわからなくなるタイムだったなあと、映像で見切れる望海さんを見ながらハンカチを引きしぼる日々ですが、腰落としてのダンスの時の彼女の、ひとのことをとって食らいそうな捕食者の笑みが鮮明に焼き付いてて思い出すだけで縮み上がってもいます。固定アングルをください。
蘭蘭デュエダンでは、らんとむさんの差しだした手を振り払う蘭乃さんの小悪魔かわゆさに見とれていました。ややもするとらんとむさんより蘭乃さんのをみてしまうくらいに彼女のダンスが大好きです。

場面転換やスーツやその他衣装のバリエーションの素晴らしさや、まだまだたくさんツボはあれど、オーシャンズ1度目はTOHO版オーシャンズ配役を考えていたのに(銀英伝も同じことをしていた)、今はむしろ外部舞台を花組キャスティングしてるからほんとうにおそろしいなという一言でこの作品の吸引力をあらわしたい。花組でALTAR BOYZとか、らんとむマシュー、みつるさまフアン、みっさまルーク、あやちゃんアブラハムとか見たいですもん。マーク人選がまだできていない。
あとあやちゃんの観月さんが見たいです。DOSAKUSA

DVDを私が見ている際に、背後から友人が、まつげバサバサ!やら台詞のキザさ、ミュージカルのメロディラインにうまくのせられない日本語etc.にいちいちツッコミを入れていたけれど、つい最近までそちら側にいた身だからわからなくもないけれど、わからなくもないからこそその壁はほんの少しの何かの後押しでひとっとびJUMP!することができるくらいの些細なものだ、と断言できる。
宝塚にはまるって花粉症になるみたいなものでコップいっぱいの容量が人それぞれ違うから同じだけ摂取してもどれだけで満タンになるかはわからないけど、コップを持ってる人はいつか必ずはまるのだと思いました。この花粉のこわいところは365日一年中無休でとんでいるところ。今全力でくしゃみしてるのでお薬がほしいです、といったら治す気ないくせに、と言われました。全然触れたことない人、一回観たけれど私は違ったと思ってる人はまだわからないから、明日急に罹患する可能性あるから、絶対なことなど何もないと覚悟しておいた方が良いと思います。
異性愛至上主義でマッチョな世界は得意ではないと思っていたら、既存の価値観に沿っているようでもっといろいろずれがある世界だったと気づき、あれ…それって心地よい…?と思っている間に抜け出せなくなってしまった人間の意見です。
まだ入り口に立ったばかりの身で、これからたくさん遡って観なければならないものをたくさんあるであろうこと、これから生で観られる公演のことを思うと、もう楽しみでなりません。