TROIS

観劇後に気合があったときだけ書きます

『ALTAR BOYZ』紹介その2

ネタバレにつぐネタバレゆえ、未見かつストーリーを把握しないまま観たいという方はご注意をば。
鍵括弧内の言葉は彼らの台詞ですが、なにせ1年前の内容ゆえ、相当にうろおぼえです。こんな感じだった、ということでお願いします。
書き手であるわたくし自身は今のところ特に信じる神はおりません、あしからず。






1.We Are the Altar Boyz(ぼくらアルターボーイズ
既に前の記事で記したとおり。

「ねえねえ、今日ここに誰が来てるか知ってる?」fu fu fu!!「神様でございます!」yeah yeah yeah!!「ほらほらみんな声出して行こうぜ!」oh oh oh!!
「このダンスフロアのリズムで、蹴散らしてやろうぜ!」

ライブ形式ながらもあくまで舞台なので、何の説明もせずに曲を連続して歌うということはありません。
MCを覚えている限りつらつらと書いてゆくのもなんなので、一曲ごとのだいたいの説明や所感を記してゆこうかと思います。
説明すると分量これだけの上に伝わらない、と思った曲については一言さらりと、もしくは観劇済みの方がにやりとする程度に意味深に書くにとどめました。もしかしたら後ほど追記するやも。


2.Rhythm In Me(リズムいっぱい)全員
「神様のリズムは僕の中に!」この曲の後半のマークに注目して観ることで、歌詞のダブルミーイングっぷりに目を見開くことになるかも。


3.Church Rulez(教会での決まり)全員
讃美歌を歌って、膝をついて祈って、寄付はこのタイミングでするんだよ、というように、タイトルの通り教会でどんなふうにお祈りをしたらいいのかボーイズらが懇切丁寧に教えてくれる曲。
ご本家だと一般常識よりもっと身にしみこんだ知識だと思うので、きっとお箸の持ち方講座をいきなり歌にそって紹介されたぐらいの「そんなこと知ってるよ!」というおかしさがあるのだと思いますが、この日本演出版ではその知識が殆どない方に向けてつくられているので、そういった笑いを取る要素はないのかなと。ひとつ前の『リズムいっぱい』でかっこよく踊っていた彼らが真面目くさって実際にその行為をするときの動作をするので、そういう意味でのおかしさ、かわいさはあります。「隣の人と手を取りにっこり!」


4.The Calling(呼び声)全員/ゴスペル調
3と4の間にひとつ前の記事で触れたアルターボーイズ創世記という劇中劇が入るのですが、そこで天啓、比喩ではなくジーザスがボーイズらへ直接、舞台上では姿は現れず声だけの存在として語りかけてくるのとともに、携帯電話が上から降ってくるんですね。現代では神様も携帯電話で直接自らの声を届けるそうです。とこれだけ書くと本当に冗談みたいなのですが。「あなたたちが世界中に愛を伝えなさい」
恐ろしくふざけた歌詞とはうらはらに、そのメロディの美しいことと言ったら。


5.The Miracle Song(奇跡の唄)ルークとフアンメインの全員/ラップ
聖書に記されたジーザスが起こした奇跡を紹介する歌。エピソードチョイスはきちんと彼らの福音書ヨハネ第2章のマリアが水をワインにした話、マルコ第1章のジーザスが男の病を治癒した話、マタイ14章の水の上をジーザスが歩いた話、から。個人的に「この瓶に水を入れよ」のアブラハムが好き。


6.Everybody Fits(みんなだいじょうぶさ)アブラハムメイン、途中マークソロ
「一度ユダヤの羊飼いを信仰すれば、私たちは皆、神の子なのです」
ひとつ前の記事のアブラハム紹介部分で既に記してしまいました、がまだ書いてしまう。ボーイズ5人が羊さんのパペットを手にはめて歌い踊るこの歌。公演を重ねるごとにどんどん皆の羊さんの動かし方が器用になっていくので、わちゃわちゃっぷりがほんとうにかわいかったです。歌のおにいさんたちのよう。
隣人愛を説いた歌、ではあるのでしょうが、神の教えに基づくものとして、祝福された存在であるアルターボーイズが布教の為に歌う歌、というのだけではなく、実際に周囲からはみだしっことして浮き上がっている存在の彼ら(マシューは除くとしても)、特にアブラハムがメインボーカルとして歌う歌である、というバックグランドを知った上で聴くと、その切実性に心打たれずにはいられません。「だいじょうぶ」ではない彼らが「だいじょうぶ」と歌う。自分たち以外のはみだしっこ、もしかすれば観ている私たちに注ぐやさしい応援歌であり、また彼ら自身の願いを込めた祈りの歌でもあると思うのです。
そしてこの時点では流してしまいがちな、ほぼアブラハムメインのこの曲の「男も女も皆愛し合う家族」という歌詞を含む前後のフレーズ部分のみマークがソロで歌う、ということの意味、マークの性指向、彼がつまはじきにされる理由に照らし合わせて考えることで、これは二重三重の意味でやさしい歌であることにも気づかされます。


7.Something About You(きみのなかのなにかが)マシュー/バラード
「汝、姦淫を犯すことなかれ!」最前列下手寄りのお客さまはご注意あれ。


8.Body, Mind & Soul(肉体、心そして魂!)ルーク
「魂を鍛えろ!」ルークの声かけにぜひのってやってください。彼の鬱屈が暴力ではなく、いつもこういった陽のエネルギーによって発散されるならば!


9.La Vida Eternal(永遠の命)フアンソロ/ソウルセンサーの数字は33
途方もない祈りが込められた歌。
この曲の前に、今日はフアンちゃんのお誕生日当日だということが、ボーイズらが用意していたケーキとハッピーバースデーソングにより発覚します(毎公演、フアンちゃんのお誕生日ではあるのですけれど)。
そして誕生日お祝いとして、ボーイズらが密かに調査を頼んでいた探偵事務所から届いた、フアンちゃんのご両親の消息が記された書類が入れられた茶封筒が彼に贈られるのです。プレゼントを受け取り、当然おおはしゃぎのフアンちゃんでしたが、皮肉なことに、開封した書類内容を読みあげる彼に突きつけられたその知らせは、両親が眠っている墓地を探し当てた、というものでした。ボーイズらと出会うきっかけともなった、一番の望みがもう叶えられないことを知り、気丈に振るまいつつ、結局泣き伏してしまいながらもそれでも、「人生は、続くんやからな!希望は捨てたらあかんのや!」と決意に満ちた言葉を口にし、そうして彼のソロ曲である「La Vida Eternal(永遠の命)」を歌います。
自分自身の死への恐れを口にしつつも、誰でもいくところなのだから、あの世は怖いものではない、語りかけるその歌詞。あの世での救済を絶対視する、というジーザスの教えを信じていない身としてはいささか理解が及ばないところがあるこの歌をきいて、フアンちゃんの信じるところとしてその内容はストレートに捉えなければならないものなのだろうと思いつつ、ラテン調のノリの良い、けれどどこか郷愁感をあおるメロディにのせられているがゆえに、少々物悲しいものにも捉えたくなってしまいます。いつもはセトリ通りの彼の持ち歌として歌われていたとしても、前述の出来事により常ならぬ状態の彼の心の内を慮れば、今回限りはどうしたって込められる意味も違ってきてしまう筈です。実際、彼は途中でこの歌が歌えなくなり、舞台の脇にはけてしまおうとする、というミュージシャンとしてはあるまじき行為に出ようとするのですから。普段の陽気な彼の姿からは考えられないことです。他の4人はもちろん大慌てで必死に彼を止めようとしますが、いったんボーカルは「お前歌詞書いたんだから歌えるだろう!」というマシューの安易な発案により、2番まるまるがアブラハムへ受け渡されることとなります。歌詞転載はできませんが、1番は死への恐怖、2番は前述した、その恐怖を取り去る内容(ここにも「だいじょうぶ」という言葉が出てきます)、怖いものではないんやで、と呼びかけるものなので、両親との別離を知った直後のフアンちゃんが、この歌詞が歌えないような心境になったのも頷けます。唐突な代打ではあったとしても、アブラハムを始めとするボーイズら4人が、普段フアンが歌っている皆への励ましの言葉を今度は彼自身に投げかける。「僕の手を取って」というフレーズで、歌詞の流れに沿った自然な仕草として、フアンちゃんに差し出されるその手は、もしかしたらフアンちゃん自身がいつも振りとしてやっているものかもしれませんが、いつもと違う意味合いを帯びて、お決まりの流れ以上の切実さ、あたたかさを感じさせます。その後のボーイズ4人がフアンちゃんを袖にはけさせまいと取り囲んで、あやすような、元気づけるような振りをする箇所にも。
あの世での救済を待たずとも(「救済」の意味を正しく理解している自信はないのですが)、今現在アルターボーイズに所属して、メンバーの一員としてそこにいるフアンは、確かに素敵な仲間たちに囲まれることで確かに「救われている」のだな、ということがひしひしと伝わってくるようでした。
というこれは一つの見解で、より穿った見方をすればもっと違う様にもとれるかも。

先日雪獅子のストーリーを全く見たことのない友人に説明する際、彼女は史学を勉強する方なので、しきりに何世紀のどのあたりの物語なのか、というところを気にしていたんですね。人の思いや感情のみに重きを置きすぎて、現代に生きる日本人である自分の常識に全て当てはめて考えてしまうのはどうなのだろうか、という考えが彼女の「思考は時代と地域に支配されるものだから、そういった背景抜きに乖離して考えるのはいかがなものか」という話をきいて浮かんでしまいまして。このアルターボーイズという舞台も、時間軸が現代であっても、キリスト教(或いはユダヤ教)を信仰している欧米人のお話、という意味で安易に日本人の常識にのっとって捉えてはいけないよなと改めて思いました。しかしこの舞台を貫くそもそものメインテーマや、演出が日本仕様に変更されている点、更には日本人の俳優さんたちの解釈によってボーイズらが演じられている、という事実をも考慮すると、一観客である私が観ていて自然に浮かぶ解釈もそんなに見当違いのものにはならないかな、とも思うのですが。

以下は、メキシコ関連の資料を漁っていた際に出会って「まさにLa Vida Eternalはこの死生観からそのままきているのだな」と思い出さずにいられなかったオクタビオ・パス『孤独の迷宮』よりの抜粋。

「メキシコ人は、死としばしば出合い、死を茶化し、かわいがり、死と一緒に眠り、そして祀る。それは彼らが大好きな玩具の一つであり、最も長続きする愛である。確かにその態度には、他の人々と同じように、恐怖心があるかもしれない。しかし少なくとも、隠れもそれを隠そうともしない。もどかしさ、軽蔑、あるいは皮肉をこめて、死を正面から見つめるのである。「もし明日殺すつもりなら、ひと思いにやってくれ」と。」


10.Epiphany(真実の啓示)マークソロ/ソウルセンサーの数字は10
「カミングアウト!」
演出上ここがご本家と一番違うところかもしれない。マークのカミングアウトの歌。
マークの紹介文でも既に記したとおり、幼少期からの自分の「はみだしっこ」ぶり、それにより当時受けた同級生からの酷いいじめについて、そしてそこから救い出してくれたマシューを「ぼくのガーディアンエンジェル」と呼ぶことになった経緯の説明はここでなされます。
ご本家だと、この流れで歌いだしたマークはてっきり曲中でゲイとカミングアウトするのかと思いきや、「ぼくはカソリック!」と落とすという「えっそこは皆知ってるよ!」とツッコミが入る、笑いを取る曲らしいのですが、玉野先生の演出はそちらの方向には持っていきませんでした。
「ぼくはカソリック!」と告白する事で、マジョリティとマイノリティ、プロテスタントカソリック、ストレートとゲイという部分の対応を浮かび上がらせ、カソリックである、という告白自体がマーク自身の性指向を示唆するという流れになっているのでは、と思わせる演出になっています。この曲を歌う際のマークの背に輝く虹色のネオン、歌詞にも含まれる虹色はLGBTレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)の象徴レインボー・フラッグ。
個人的な思い入ればかりで構成されている文章ですが、更に言及するとマークの決意に、一つ前のフアンのものよりもプラスのエネルギーに満ち満ちているように思えるこの曲がとても好きです。この曲を歌えるマークは既に自分の悩みを克服、あるいは闘い抜いた結果、いつかまた折れそうな出来事があっても一生涯を共にしてゆこうという決意を胸に秘めている。「誰に恥じることもない」最初からそうだったのではなく、困難を乗り越えて強さを身につけた彼がすごく格好良い人だな、としみじみ感じられる曲だなと思うのです。ぼくがカミングアウトしたんだから今度は君の番だよ、さあ!というやや強引かつ、無理やりを装ったやさしさにも思える、一周まわって繊細さを秘めたところもマークらしい歌詞。

しかしこの後マークのソロをもってしてでも救済されない会場内の罪深い4つの魂がいる、ということがソウルセンサーの数字で発覚し「いつもならこれでゼロになるのに!」とマークは驚き憤慨します。「いつもなら」その言葉、彼の姿に、この告白の流れすらもお決まりのショービジネスとしての一環なんだろうか…?という事実に思い当り、その姿勢にがっかりするなんてとんでもないことではなく、自分の傷をむき出しにする覚悟やそれを売り物にする彼の逞しさ強さを思ってため息をつきました。もしかすると普段はあの告白なしの歌のみだったかもしれないですが、それにしたってマシューが曲を、アブラハムが歌詞を書かなければならないことを考えると、突然に生まれた曲でないことは確かですから。

彼らがカソリックバンドであるアルターボーイズの来日公演として新宿faceでライブを行っている事が、同時に「このアルターボーイズという舞台の」公演を行っている、ということであること、フアンちゃんの誕生日は「アルターボーイズ」という舞台としては毎回あっても、舞台に立つ彼らにとっては今回限りのもの、歌われる曲は私たちにとってはその公演内一回こっきりのもの(リピートできるという話はさておき演目として)であっても、彼らにとっては全世界各地の会場で繰り返し歌っているもの、と考えるともう頭の整理が上手くつかなくなります。幾重にもなっている。


11.Number 918(讃美歌918番)全員/ソウルセンサーの数字は4
シスターマーガレットマリーがボーイズらのお昼寝の時間に子守歌として歌ってくれた曲だという話ですが、…?


12.I Believe(アイ・ビリーヴ)
思い入れが(以下略)
次回にまわします!