TROIS

観劇後に気合があったときだけ書きます

花組バウ・ショーケース『New Wave!』1幕


「舞台の上に現れては、跡形もなく消え去っていったものたちのために」







花組ショーケース『New Wave!-花-』観てきました。

夢のような10日間でした。

1年前のヴィクトリアンジャズが6月にオンエアされ、なぜ!私はこれを生で見なかったのか!?と膝を抱えていた分、はまってたった半年で、また全然異なる性質の作品ながら、大好きなひとがまんなかに立つ姿を目の当たりにできる機会に恵まれる幸せったらなかったです。

まんなかのひとを含め、普段見せ場がなかなかないような下級生にまで、このこはこういう歌が、ダンスが得意なんだ、とじっくり味わえるような場面がふんだんに用意されていて、出番が与えられること、の大切さを改めて噛みしめるとともに、そうして活躍する場を与えられた花組子ひとりひとりが、もっともっと、といい意味での「欲」で前のめりに、ぎらぎらしている姿がたくさん見られた幸運を、いまも反芻しています。


<1幕>
New Wave!
花組×ラテンの恐ろしさよ。
初日幕開き直後に、葉牡丹ほどもある袖のたっぷりフリルとピンクのぴん!と立った襟、ぎらっぎらに光る金の鱗、ホログラムの折り紙でこういうのあったなあ、と思い出すような生地、額の羽根飾りとの合わせ技に、これをおにゅーの衣装と喜ぶ望海さん・・・・・・と言う意味でも、背中を椅子の背もたれに張り付かせるほど驚いたというかめまいがしたのに(ヅカヲタ研1)2度目に観たときはもう、かっこうよさのほうに針が振り切れてほほの内側の肉を噛みしめるのも忘れて、完全にへらへらの笑顔しか浮かべられなかった。俺は今絶好調!と言わんばかりの、arrrrrrrrrrrrr!!!という雄叫びが望海さんキキちゃんあきら氏の口から発されるたびに、舞台のどこかに蘭寿さんがおられる・・・!?と目を凝らしそうになりかけていたこと。
全体的にものすごくねっとり。したたり落ちる色気。あきら氏の肩に手を置いて、若干落とした腰をぐるんぐるうん回す望海さんの見ていいものかどうか目のやり場に困るあの感覚。
奥から前方へ駆けだしてくるべーちゃんの男役さながらの釣り師ウィンクを忘れない。

○Heat Wave
ああ僕に気づいて振り向いてくれるだけそれだけでいい。イパネマの娘で焦土とした客席を君は見たか。
お客さんとの応酬で劇場の熱量が増し、どんどんとノリがひどくなってゆく、主にキキちゃんのチャラさに震えていました。握手だけならばまだしも顔を近づけて頬に手を添える、手を取って立たせてチークダンスetc. キキちゃん列伝に事欠かない後世に残るめいばめんになったことでしょう。
魂を抜かれたままのあきら氏ボーカルのワン・ノート・サンバでも、娘役さんへのちょっかいが日に日に加速しているなあと思いつつ、曲自体が「一つの音でも愛は伝わる」という歌詞がとてもすてきで気になる。
I will pour into the one note all the love I feel for you.
そして望海さんのコルコバードに繋いでの、キキちゃんメインの美麗猫!去り際に猫の手をつくってぐるぐるいたずらっぽく示しては、反撃を食らわされて驚いた瞳で下手にはけていくキキちゃんもにくめないながら、ここは娘役さんたち、特にべーちゃんのねこにめろめろしていました。口の大きいこに弱いです。
ミラロケットの一度まっすぐ振り上げて下ろしてからぐるん、と再度振り上げるときに回す脚上げがすごくツボだったこともここに書き記しておきたい。
あきら氏、望海さんのSolo Que Me Faltaは、男役ふたりだとうまれがちなお耽美さが驚くほどなくて、なんて野郎くさいふたりなんだ・・・!とある種の感動があった。ひとりの女性を挟んで取り合うような役どころをふたりが演じたとしても、女性そっちのけでなんらかの関係性を築いているのかな、というホモソーシャルな雰囲気はおそらく皆無。まさに文字通り、ふたりががっぷり組んでいる姿におなかいっぱいに。

○光と影
Mr.Swing!のエトランゼを思い出すような、光のキキちゃんにいたずらして、成り代わろうとする勢いの影のレイくん。レイくんがちょっかいを出し続けるもまんなかを譲らないキキちゃんのどっしりぐあいを示すMy Wayからの、ぐるりを取り囲む影たちがレイくんの手先となるように、キキちゃんに妖しく絡みつくPerfume。ひとりひとりがまんなかのひとを翻弄してゆく箇所で、楽しげな表情を浮かべたままキキちゃんに絡むマキシムが、身体が離れた瞬間、ぱっと無表情に戻るその温度の落差に毎回心をざわつかせていました。どちらか一方が打ち勝つのではなく、半身と心通わせるように、笑顔で向き合って踊る光と影のブルースカイでしめる流れも好きです。

○サンセット
かつての恋人あきら氏と娼婦になった(?)るなくんとの邂逅。
冒頭のあきら氏のBlues in the Nightのところは、彼の左手側にいる和海くんの、腕を振り上げた真顔からの、一気に降り下げた後の、少しあごを引いた笑みの妖しさに魅入られている。朝日のあたる家は、ビックくんの歌声も、ふたりのデュエダンも、もの悲しいけだるさでとても好きです。るなくんの女装したときの、どこかはかなげな風情、だめな男にひっかかりそうな感じと、昔の俺はだめだったけど今ならお前を幸せにできる(だから迎えに来た)というようなあきらくんの誠実だけどずるずる引きずられると堕ちていってしまいそうな雰囲気の妙。ジゴロらに引き離された一度目、切なく腕を伸ばし合うと思いきや、曲が変わってリズミカルになったとたん、階段上でノリノリで、客席側に人差し指で空気を掬うように合図するるなくんの肉食ぽさもたまらないなあと。
Stormy Weatherは、引き離されて、それでも再び出会う彼らを盛り上げる和海くんの歌いあげっぷりが耳にとても心地よいです。

○雨〜虹
望海さんがまんなかに立つ姿を見られる幸せ第一弾。
真っ白いコート、スーツ姿で上手から登場したときの佇まい、なにものも頼みにしていないような「独り」の姿に胸を撃ち抜かれてしまう。
『傘がない』の眼をすがめた、すれっからしのがなり声、世を全力で拗ねてそうなお姿を見て、このひとは、安保闘争あたりの時代の学生というか、襟元まできっちり留めた学ラン着たり、志高く学生運動に身を投じるも結局投獄されて、狭い部屋で膝を抱えているような役が似合いそうだなと思ってぐ、って胸を詰まらせていました。素顔のきつめの美人ぐあいとは裏腹に、なのか、男役としては一世代も二世代も前、古くさいのが似合う不思議さは、二幕でも思い知らされることになるのですが。なんで井上陽水がここで突発的に、と全体のバランスとして初見は戸惑っていたのですが、望海さんとこの時代の懐かしのメロディの合わせ技が効果的と思い立った三木先生に、いまではお歳暮を贈りたい気持ちです。
『氷の世界』もあのイントロの刻みでくるぞくるぞ、とざわざわしてしまう。あの歌い出しを喉につっかえたようにわざと遅れさせるところ、1番の「氷の世界」の「い」がひゅん、と静かに消えるところ、「誰か指切りしようよ」から片方立てた小指の手を、もう片手で覆うようにする仕草での「今日は一日張り詰めた気持ちでいたい」のこわばった表情、キキちゃんの歌う「小指が僕に絡んで」のフレーズのところで、下級生らに取り囲まれて身体がほぼ覆い隠されている中、まっすぐ掲げた右手、示した指切りの小指だけが見えている構図が、はっとするほど印象深くて、絵として大好きです。うろうろとべーちゃんを探して舞台上をさまよう姿も。
そしてそして、コートを脱ぎ去った望海さんが、虹の彼方で、七色のあたたかい光に照らされて、くるりと振り返ったときの表情といったら!あのときの笑顔が、手のひらの上にのっているものだけで充足している、この世の喜びと愛おしみすべてを集めてひたひたにしたような、心の底から満ち足りたひとのものに思えて仕方なくて、なんだかもう見ているこっちも「もう、これだけでいいです…!」という気持ちになり、毎回感極まっていました。そうしてあの笑みと、あたたかで力強い歌声で、舞台を溢れさせる彼女の姿。
すれ違い続けていたべーちゃんとようやく出会って、最初に腰に腕をまわされた瞬間の喜びと幸せにひたされた表情ももちろん、歌のラスト、前方を向いて歌ってる時に、べーちゃんに後ろからさっと右手を握られた時のえ、うそだろ、こんな幸せがあっていいの、というように、感情がない交ぜになってこわばったところから、じわじわそまってゆく表情のいとおしさ。歌声も、表情も情報量が過多なひとだなと、毎回受け止めるのに必死です。

二幕は別記事にて!