TROIS

観劇後に気合があったときだけ書きます

花組バウ・ショーケース『New Wave!』2幕

<二幕>

○フラワークロニクル
パンフレットのお写真と同じ、黒シャツ白燕尾のメイン三人、脇をかためる下級生男役さんらの黒燕尾白シャツ、娘役さんらの黒ドレスずらりの図の壮観さ。
『愛におののく花』の基本右左に揺れる動作のみのなか、手持ちマイクでの歌唱だからこその、片手だけの振り、頬、顔の輪郭に沿うようにすべらす、ただようような望海さんの手の動きのなめらかさ美しさに魅入っていました。この場面に限らず、望海さんが、シンプルにくるっと一回転したり、背を向けているところからばっと振り向いたときの、前方を見据える視線の、どこかを一点縫いとめるような揺らぎなさがとても好きです。しかしあの、どはまりしてしまうからこその歌謡ショー担当っぷりはいったい。後の『虹色のパステル』の二小節メロディをきいてからの曲への導入の、さてさて年末の締めくくりはこの歌で!感。
あきらくんのダンスメインの『ピーターガン』は、センターでポーズを決め続ける彼のキザりぐあいが、ただただ格好良く息を詰めて見守ってしまう。
マキシムの『ファンシー・タッチ』はぜんぜんマニアックポイントじゃありませんからね??と花バウ組長さんに思いつつ、マイクを持つのと逆の手で、胸から肩まで撫で上げるようにする手つきと最後のウインクのいろっぽさに毎回やられています。
『ザ・ダンディー』の黒燕尾マイレイ並びのドリームキャスティング感に目をこすりつつ、レイくんに歌い繋ぐマイティの「ダンディズム」の歌い方の巻き舌かげんに末恐ろしさを感じるこの頃。
『夢を見れば・・・』のエンターザレビューは、娘役男役ふたり一組での「扉をあけて♪」のまさに歌詞を表すような振りがかわいくてツボです。感想部分でのあきらくんの身体を小刻みにふるわすコミカルな動きも。
そして『Exciter!!』〜『夜明けの序曲』へ。Exciter!は映像でも繰り返し見て、聞いている大好きな曲で、それの真ん中が望海さんverにお目にかかれるなんて!と稽古場映像でわくわくしていたところ、本当に数小節のみにとどまっていることに少し肩すかしをくらったのですが、それでもあの曲調の気分の盛り上げようと言ったら。「燃え上がる」のかくかくかく、と肩をそびやかして腰を落としてゆく振りがとても好きです。

○ザ・ヒーロー〜私たちの夢
ノリのよさが『Exciter!!』と通じる気がする。るぽわぞんの、つま先立ちの勢いで前傾になって、右手と左手で交互に斜めに水かきするみたいな振りがなぜかわからないけど個人的にとてもヒットだったのですが、今回この場面でその振りを彷彿とさせる部分があって、あきらくんの左隣で該当箇所を踊る和海くんをいつも気にしていました。男役で踊ってから上手から下手へわっとはけていくのと同時に、上手からわっと娘役が現れて間髪入れずに踊り繋ぐ場面も、フライヤー右上のあきらくんメインのかたまりがそのまま舞台上に飛び出てきたように、下手で歌ってから今度は上手へと移動して歌う、あのぎらぎらとしたエネルギーのかたまりの舞台上での爆発、熱量のきらめきが見ていて理屈じゃなく肌から浸透するような、楽しい!!と訴えかけてくる場面。

○Big Apple
真ん中に立つ望海さんが見られて幸せです第二弾
『My Time of Day』で下手通路から登場する際、幸運にも最後尾一直線、扉から出た瞬間の横顔を見られる機会があって、鼻筋と頬、あごのラインのシャープさに見とれていました。全部端正な直線で描かれているひと。ゼロメートルのときは、扉が開く音だけで震えていたし、うまい具合に見上げられなかったので、少し離れた位置からがベスト。階段を降りてゆく、コートを羽織った背中がこちらにひしひしと訴えかけてくるもの。カフェブレでご本人がおっしゃっていたけれど、この方はもう十二分に背中で語る男役だ、としみじみしました。ソフト帽に、青と白のストライプスーツ、肩にかけただけのキャメルのコート。
舞台にあがって、袖にコートを投げ捨ててからの、キキちゃんあきらくんを従えた男役三人での『Steppin' Out with My Baby』からの他の子らも引き連れた『Thriller』は、ダンスのキレ、というより魅せ方、表現力にのまれる場面。帽子のかぶり方が、もちろん回によって異なるのだとは思いつつ、あきらくんの前下がりの目深、キキちゃんの斜め、望海さんの水平まっすぐ、とぱっきり分かれているのが確認できる日があって、すごく、それぞれっぽいなあと見ていて面白かったです。
そうしてゆきちゃんボーカルでの、娘役さんらのなかでの、べーちゃんと望海さんデュエダンメイン『Misty』
いったんはけて、上手から登場した最初から、喜びと戸惑いがないまぜになったどっちつかずの絶妙な表情のまま、少し先に行っては誘うように振り返るべーちゃんを追いかけてゆく、手の中に入らないものを眩しく愛おしく思うような場面の得難さ。迷子の子猫の私なの、の歌詞のところは、腕をすり抜けていくべーちゃんを、えっ、と虚をつかれた表情で手を伸ばしながら追いかけてゆく姿を見ながら「子猫」の主語は望海さんなんだなと。だからといって、この場面における望海さんがかわいらしいかというと、そんなことはまったくなく、むしろ幼いべーちゃんをレディとしてエスコートできるほどの、酸いも甘いもかみ分けた、かなり年上の男性に見える、という話を友達としていました。「霧の中をさまよう手がほしい」という歌詞の主語とは。
小悪魔までもいかないおぼこい女の子がじぶんの変身ぶりに舞い上がってうかれてはねまわっているのを、そっちに行ったら危ないよとも言えずにただ彼女が望むように追いかけているふりをしてだいじにだいじに見守っている男。べーちゃんに手を差し出しているとき、べーちゃんに袖に軽やかに走り去られたときの望海さんの、少し残念そうだけどしかたないな、と言いたげな、やさしげな目つきに、深い豊かな愛情を感じます。最初からそうなるのをわかっていた諦念なのか、それとも一切が過ぎ去ったあとの回想なのか、と思わせてしまうのは、そこからつながる『New York State of Mind』のせい。どこか一場面だけもう一度見られるとしたらべーちゃんに笑みだけ残して去られたあとひとりで歌う『New York State of Mind』かな、という話をしていた時に、原曲の歌詞を見たら特に相手の存在をにおわすような箇所がなかったので、今回の訳詞は結構意図して変えてるのかなとも思いました。ブルース聞かずにも生きてゆけるけど、あいつの思い出が残るこの街がいい(だからおれはここにとどまる)、みたいな箇所。背中にどこか放っておけぬような哀愁を漂わせているけれど、かといって近寄ったところで彼を劇的に変えるような何か与えるようなことはできず、変わって欲しいとも思えず、息を詰めて物陰から見つめていたいような、遠くから幸せを祈るような役も似合う人なのだと、ショーの一場面で思い知らされるとは思いもよらず。男役として、どこまでもいい意味でオールドタイプの男、なんだろうなあと。『My Time of Day』からのべーちゃんとのデュエダンのせいで『ガイズ&ドールズ』を全編通しで望海さんで見たい気持ちで今いっぱいです。
舞台の上で、性別や年齢すら超えて、何者にもなれる人の存在に、どうしようもなく魅了されている。

『New York, New York』で黒サスペンダー赤シャツ、黒ソフト帽の男役さんらの後ろで階段上に立って、気持ちよさそうに歌い上げている佇まいも、彼らと一列に並んで肩を組んで、脚を振り上げている構図も大好きです。
あの場面の帽子をとったマキシムの前髪が好きなのですが(マニアックポイント)、前楽では帽子高く投げすぎてキャッチできず落としてしまって、るなくんに拾ってもらってたからか、楽でキャッチできたとき、後ろ振り返って確認してる望海さんに、イエイ今回はできましたよ!って腕上げて合図してたところがとてもかわいかった。
大変余談ながら、組子紹介で漸く自分の番が巡ってきたのにもかかわらず、自分そっちのけで三大プリンス@花バウのマニアックオススメポイントを前のめりで語るマキシムさんが、なんというかとても私たちで、好感度がさらにうなぎのぼりです。

ニューヨークメドレーが終わると思わせての、マイティの『Manhattan』初日の「マン、ハッタン・・・」の吐息だけで歌っている・・・!という震えは忘れがたいです。お化粧のせいか、彼は始終半目というか伏し目がちなので、ちょっと表情をつくるだけで目つきがものすごく色っぽくなって目のやり場に困る。赤いジャケットの佇まいに、あと10年20年したら、マイティのエンジニア@サイゴンあるで・・・!と思ってから我にかえりました。

○VIVA!モータウン
『Soul Finger』のおそろい銀色ドレスのべーゆきのかわいさに魅了されながら、後ろのずらりそろった花娘のかわいさにも、どこを見たらいいか困る場面。特に下手端にいる、緑と白のストライプにふりふり襟、カチューシャつけた巻き髪おかっぱ前髪かわいいうららちゃんがイチオシです。べーゆきが下手に横歩きしていったあと、顔を見合わせて笑むのも、上手にさらに移動して、腰をぐっと引いて前傾になったまま声をそろえて歌い出すのも!
『Knock On Wood』のキキちゃん、『My Girl』のあきらくんともに、最後のフレーズを歌った後のキメ顔が魂を抜かれる系(口でもウィンクする花男怖い)だなと思いつつ、そこから『The Dock of the Bay』までのボーカルを背景に、多種多様な恋愛模様が繰り広げられている舞台上がかわいくて見ていて飽きません。お目当てのこと一緒になれずに肩を落とするなくんれいくんビックくんのやれやれぶりも見物。

そして『I Can't Help Myself』〜『Reach Out I'll Be There』の『Exciter!!』『ヒーロー』に確実に通じるぎらぎら感、楽しさたるや!直前までしっとりと歌い上げていた望海さんが表情をがらっと変えて、あの口を惜しみなく全快にしての、底抜けに楽しいナンバー。suger pie honey bunch♪かわいいベイビー!と歌いながら、全員での客席降り、盛大な釣りっぷりにより劇場全体を焦土にしたあと、舞台上に戻ったあとの組子全員から発されるエネルギー、熱量の多さ、ひとりひとりがきらきらぎらぎらとしているからこそのパワーのようで、客席にいながらにして彼らに混じっているかのように、うれしいたのしいだいすき!という気持ちになったことを、きっと忘れないなあと思います。締めの「suger!!」の三角おくちのかわいさも。

○Song&Dance
望海さんがなにやら狙っていたというキキちゃんの『For Once In My Life』楽日のこの曲がまるで違う曲のようにきこえたのは、最後だからと言うのもあったのでしょうか。キキちゃんがいま胸の奥からせり出てくる気持ちを歌にのせているような、ただただ伝えたい、という切迫した想いをひしひしと感じて、胸が苦しくなるほどでした。キキちゃん大本命の方はきっとまいってしまうであろう、素敵な場面、歌。
ゆきちゃんの『Yesterday』はれいくんらの場面のバックボーカルにとどまっていないというか、もちろんふたりの世界観を増幅させ強固なものにしていたのですが、単に声量というだけでなく、広い舞台上をひとりで埋める力のある歌声だなあと、聞き惚れていました。
『You Keep Me Hanging' On』で黒タキ&サスペンダー&白マフラー姿のあきらくんが出てきた瞬間、あまりの似合いように息をのみつつ、同じ格好を望海さんにもぜひ、と思っていたところの『I Who Have Nothing』階段上から堂々登場される、あの格好の望海さんに、思わずのけぞらんばかりに、座席の背もたれににめいっぱい背をつけてしまってもきっと責められない。なにかを希求するひとの切実性にどうしようもなく弱く、キキちゃんの『For Once In My Life』にもそれを感じつつも、彼女の方は刺し貫かれるような「陽」で、けれどこっちの曲の望海さんはかなりじっとりとした、地を這ってもひとつのものを追い求める「陰」の切実性だなと。膝をついて誰か一人だけの愛を乞う、絞り出すような「I love you」に締め付けられ、がんじがらめにされる誰かもきっと本望だろうと思いました。格好が似ていることもあいまって、つい半年前なのに、いまの望海さんが演じるベネディクト氏はきっと全然違うひとなのだろうなと、改めていまの彼女のベネ様を見てみたくなってしまった。

○Unity〜ひとつに〜
べーちゃんの『Amazing Grace』の響きが降り注ぐなか、4人のコーラスがあわさって溶け合う妙。そこからつながってゆく望海さんの『If It's Over』 ゆったりとしたメロディを舞台上に浸透させていく歌声ももちろん、センター階段下に降りてきた彼女が、両手を交差させ口元を手で覆うような振りをした後、振り返って、キキあきら氏を交互に見てから、組子ひとりひとりに視線を向けてく場面が、すごく好きです。まんなかのひと、として全体を見て、気持ちを通わせているのがひしひし感じられる箇所だからかもしれない。

New Wave!〜今だから〜
これでもか!と通路から登場する花組子に初日はおののきつつ、ローラースケート履くのが似合いそうなお衣装だなあと、舞台中央に望海組長を中心としてV字に並ぶ彼女らの姿を見ながら思いました。一つに!一つに!と楽しげに歌うまんなかの人の表情に、ほんとうにこの人は曲によってがらりと雰囲気を変える人だなあと思いつつ。新しい波が、ここからうまれてどんどん大きくなって広がってゆく様を、これからも見ていたい、と思わせる、ひとりひとりの楽しげな表情を見たくて、楽の挨拶の時は全体を見回すように、視線をすべらせていました。
ベーちゃんにやたらとかまってもらえるお席のとき、真横にいる時はともかく、舞台に戻るため通路駆け抜けてゆく一瞬で顔を横に向けて近づけてくれて、ニコッと笑顔でピンポイントで見てくるっていうという、彼女の釣りへの貪欲さというかハングリー精神にぞくぞくしたことも、書き留めておく。


楽がはじまる前の横スピーカーから聞こえる波の音に(あっ、いまから溺れるんだ…)って覚悟したこと、終わってから、幸せという言葉を肉声で1年分ほど発したことを、ずっと、できるかぎり覚えていたいです。

過ぎ去ってゆくたくさんのものへの礼の尽くし方は、ただただ覚えておくことだけであるような気がしてきた、2013年冬。