TROIS

観劇後に気合があったときだけ書きます

花組ショーオルケスタ『Mr.Swing!』

感想ふたたび






1週間に1度行ければと思っていた筈が、気がついたら観劇した日につける手帳の丸印が恐ろしい数になっていて、ペンを持つ手がわなわなしました。この一回は唯一無二のもの、とどんなに気持ちを固めて劇場へ向かってもやはり回数を重ねすぎることで薄まってゆくものはあるかもしれず、それでも一回でも当事者に、という気持ちがどうしても勝ってしまう公演です。

それとは相反するような話ではありますが、この間この公演をアテンドした友人らがとても楽しんでくれたようでで、細部の記憶は薄れていっても、初観劇体験として、楽しかった!というところだけ濃く残ってくれたら、観た側にとっても、舞台にとっても、それだけでもうすごくすてきなことだなあと思いました。



主語がないものは大抵あのひとについて。

○第1場 ドキッ☆男だらけのジャケットプレイ
格好よさとはこういうことさ、という帯をリボンのようにぐるぐる巻きにしたい。男役群舞×スーツ×ソフト帽の魅力をがつんと叩きつけられました。ジャケットと一緒に心がぶんぶん振りまわされている。
冒頭でいったんはけてから遅れて出てきてみりおさんに肩ぽんののち、ジャケットを振りまわしつつ前方へ躍り出てから、片方あげた膝の上にジャケットを置いたまま、斜めにかぶった帽子を両手で直しつつ口を開いてウインク攻撃の流れ。帽子を舞台袖に投げるときの綺麗なななめ45度の軌跡と、ジャケットを着込む時に片方だけ袖を通さず皆の列に肩から滑り込んでくるところ、一瞬そのまま踊ったあと、振りを続行しつつ袖を通し終えるところ、が好きです。

○第2場 青と金の波のなかで
中央に現れるらんじゅさんを出迎える花組生みんなの歓声と身ぶりに溢れ出る大歓迎ぶりは、見ていてひたすらに楽しい気持ちに。
おんなのこがすきな、金と青のコントラスト(カフェブレみつるさま談)のお衣装は、金色フリルが波打ち際に立つきらめく泡で、青いのが波そのもののイメージに見える。下手前列にのぞみさんがいるとき、右肩をすこしあげて目配せするようにしてスカートを翻しながら、しゅるって隣に並ぶきらりさんの笑顔がかわいい。
上手際にばちっとするウインクをみると、まぶたの間にたましいが挟み込まれそうだなと思います。

○第3場 美は細部に宿る
勝手にくるくるまわってくれる万華鏡のよう。誰か一人を注視するのじゃなく、特に全体を見つめていたい場面。鳥と花に分かれた男役さんと娘役さんがみりおさんらんちゃんれいくんを囲みつつなめらかにしなやかに踊るたび、現れては消える舞台全体に広がる模様を見てるだけでうつくしさにふるえます。回を重ねるたびに好きになる。上手に鳥たちが並んでつくった道の間をれいくんが駆け抜けてはけてすぐ、鳥たちが前後入れ替わるところ、再構成された道の間を、入れ替わったらんちゃんが走り去ったあとに、花たちが彼らに寄り添うように駆け寄る流れがうつくしくてため息。
旅人みりおさんが銀橋を渡る際、舞台上で幻のように踊るらんちゃんれいくんの背後の幕に映し出されている光の波紋の効果、そして渡り終わってざっと幕が上がったときの、中央に寄り添ってかたまって微動だにしない鳥と花が、アラベスクの模様、秘密の花園を覆い隠す蔦のようです。細部まで張り巡らされた美。

○第4場 社会人野球だった
野球らんじゅさんの「男と女の」とおやゆび小指の見せ方が「秘密なんやけどな、な?いいもん見せたろか?」感に満ちあふれててとてもおもしろかわいいなといつも思います。
選手宣誓はゆきちゃんとペアなのですが、あのふたりだと負けず嫌い対決感ましましぐあいがとてもかわいい。指差してやーいやーい言いたげに笑ったり腕を組んでどや顔する様がさながら中学生男子で、そのあとお色気作戦に翻弄されるところも手をのばしてふらふら〜とついてゆきそうなそぶりだったり、あかりちゃんにがつんと蹴られるところもとてもよい感じに痛がっている。お色気攻撃されてスカートめくろうとするガンガンいこうぜ担当みつるさまVS抱きつかれてもひたすらかたまるおぼこい担当のぞみさん。
肩組んで輪になってぐるぐる回りつつ、気合だ気合だ気合だ気合いだ!!の気合いいれから、ばらばらになってWピースでフラワーズ挑発時のらんじゅさんの表情のおとなげなさは、初めて視界に入り込んできた際二度見しました。あんな顔のらんじゅさんを初めて観た。
ラスト頬にキスされていえい!となる場面の、ゆきちゃんキキちゃんペアが、お目当ての彼女の悔しがる顔にはちょっぴり弱いおれさ〜♪と言いつつ、先行き恐ろしい年下のかわいい男の子に、気の強いびじんなおねえさんが仕方ないわねって首すくめつつ転がすつもりで転がされてしまった絶妙な感じかわいくてこわいです(キキちゃんが)。

そして先日出たCDで、野球の歌詞が「打ちとめたらどこにいく?飲みにゆく?」だと知って、中途半端に思い描いていた設定が覆されてしまった気持ちです。今夜こそは、って言ってるけどやっぱり仕事あがりの試合なの??みんなこのあとお目当ての子とそれぞれ飲みに行ったのにお店かぶっちゃったりするの??とはてなマークをたくさん浮かべているわたしは野球さんのことなにもわかってませんでした。


○第5場 倒れ込むまで踊りたい気分の人たちを倒れ込むまで見続けていたい
はいっ!と出てくる水兵みりおさんがかわいいのはもういうまでもないことではありますが。面舵取舵〜♪の腕をクロスさせてひらひらと歌詞の通り波を描くように動かす振りが好き。
銀橋に躍り出る前に舞台袖から飛び出していったん膝を入れるようにするのぞみさんの動きが、アクセルをぎゅん!と入れる動作に見えると周囲で話題沸騰です。あなたの気合がこわい。
終わらない夜♪忘れられぬ夜♪のみーちゃんまよちゃんあきらくんの場面は、銀橋のお三方もだけれど、舞台上で踊っているよっちさん方の振りがすごくかっこよくて高確率でそちらに目が吸い寄せられて、さいきんはさらにその後ろのマキシムに目が奪われます。
海のヴィーナスらんちゃんでは、彼女を積極的に追ってる花男らにすこし離れて、ふわふわ楽しそうな笑みを浮かべてついてきているけれど、ヴィーナスさんにものすごく興味あるわけではなさげなよっちさんがかわいくていつも見てしまう。と思っていたのにこちらもついに最後尾の和海くんとマキシムを追いかけるようになりました。
ターバンスウィングガイさんたちのなめらかでない、ガクガクリズムを刻むダンスと腰ふりの緩やかさの緩急、そして銀橋渡りのおらおら具合はいつ見ても何度見ても凶悪です。

○第6場 彼の歌で熟すもの
マスカレードののぞみさんを見ていると、ニジンスキーの東山さんにも同じことを言っていたけれど、須賀敦子ユルスナールの靴に出てくる「コンポニドーレ(イタリアの地方の方言で調停者の意、らしい。祭事である役割を担う人?)」を思い出す。
「いまや、彼は、人と神のあいだに位置する存在になりました。もはや、男でもなく女でもありません。とくべつな愛で神々に愛されるコンポニドーレなのです」
空気に溶けてゆく高音ももちろん、こちらの腹の底を震わすような破裂する低音もくせになってしかたがないので、用法容量を守ってただしくおつかいください。仰け反って、身を抱きしめて、腰をあまく揺らすひとから溢れ出る音が降り注がれる空間。
濃いピンクだったジョーゼットの天蓋が床にふわっと落ちると紫色に変わるので、ああ彼の歌と彼らの踊りにぐらぐら甘く揺すぶられて、機が熟したんだな、と思いました。おいしい葡萄酒ができそう。

マスカレードでのぞみさんがにやっと笑って闇に溶けていったあとキキちゃんもらんじゅさんにマスクを付けられながら口もとだけでもわかる滴らんばかりの笑みを浮かべていて恐ろしかった。
初めて見たレイ子ちゃんはディズニープリンセスでアリエル。夢の王国のおひめさまとらんじゅさんが踊ってるのに、シンガーさんの滴り落ちて、気がついたらねっとり満ち満ちてるような色気が物凄くて、摩訶不思議アドベンチャー空間が構築されている。

○第7場 リズムたちが探しているものあらわすもの
リズムたちがひとりで、ひとかたまりで、めいめい舞台上を踊り彷徨いながら現れてははけてゆく場面ももちろん、スポットライトに照らされ中央でひとり白いスーツでのびやかに歌い踊るらんじゅさんがうつくしくてまぶしくて、しみいるようで、曲調も歌詞のせいも多分に作用していると思いつつ、どうしても胸に迫ります。みーちゃんがきらりさんと踊っているところで、時計の針に模して腕を動かす振りも好き。
sing sing singイントロで耳に手を当てて低く刻まれるリズムを聞いている姿が大地の鼓動に耳をすませてるみたいな壮大な振りに見えるし、実際それができそうならんじゅさん。だってリズムの王様だもの。
五線譜に並んだ音符たちが好き勝手と思いきや一律の規則にのっとって、でも動ける範囲で力いっぱい跳ねまわっているイメージの群舞。

○第8場 CoolSwingさんとHotSwingさん そしてスウィングしなけりゃ!
On The Sunny Side of The Streetはもう、しんみりさを押し込めた、先を見据えたひとが踵をかえすような歌詞と耳馴染みのいいはずむメロディの妙の時点で反則。みーちゃんの「明日を照らすよ」の晴れやかなとびきりの笑顔と、その前のみーちゃんを銀橋に送り出すらいらいとよっちさんが背を押したあと、らいらいから腕をのばしてよっちさんと肩を組んでいるところ。88期の三人の三者三様の姿がとても好き。
スウィングしなけりゃ、のきれいどころをずらり引き連れたみつるさまが本当にすてきで「生きていて楽しい愉快だうつくしい」をとてもつよく感じる場面のひとつです。裏拍で溜めが重くなってゆくところからが特に!!額に滲む汗すらひたすらにうつくしい。格好良くキメるところはキメて、でも見てる側の気持ちも配慮して、ねえ、楽しんでる?と問いかけつつ、こちらを気負わせないように自分も適度に緩急をつけて楽しんでいるんだろうなと伝わるところ。粋とはあなたのことです!!としびれるし、後輩になって、男役のなんたるかをあの背中に教えていただきました、って勝手に言いたくなるお姿です。みつる先輩!

第9場 つかの間消えてゆく
らんじゅさんを中心に囲んだ娘役さんたちが、大階段上でふぁさふぁさ揺らす羽根が舞台上に落とす影を見るのが好きです。2場の波が夏のはじまりの波なら、9場の波は秋に差し掛かった少しさみしい海の波の光景なのかもしれないなと。

○第10場 男役とは
「過ぎ去りし夏の日へのレクイエム」と銘打っているのに大分経ってから気づきました。
シケ一筋も垂らすことをおのれにゆるさない、きっちりとかためた髪の毛、黒燕尾での揃った階段降りを目の当たりにした瞬間、圧巻の一言しかでなくなる。花組の、花男のなかのひとり、である姿を見るのが好きだなあとどの場面より思います。
きりりと引き結んだ口元が腕をクロスさせて身体を揺らす振りのところで、少し弧を描くのをいつも確認してしまう。

○第11場 うつくしき攻防戦
蘭蘭おふたりの駆け引きに毎回しびれている。らんちゃんの、こちらに堕ちてくるのを待って網を張っているような小悪魔の表情。それに呼応し比例するように増長するらんじゅさんの大胆さ。後ろから抱きすくめられても片頬で笑んで(その表情を背後の彼は見ることはなく!)両腕をぱっと開いて安易にそのおこないを承諾しない、キスをされれば平手をくらわせようとするらんちゃんの優雅に鋭くとがれた爪の存在、それにもめげない恐らくこれも何回目かのアタックで、いつかは彼女をものにするだろう光景が浮かぶようならんじゅさんの大人の余裕。いつまでも続いてほしいやり取り。


いっしょう人生が交差しないひとの幸せを、たとえいっときであったとしても、結構な思いの強さで願うこと自体が、じぶんが生きていて楽しい愉快だ美しい、と感じることにつながるってこと、舞台を見なければ知らなかっただろうなあと、さいきんひしひしと感じます。