TROIS

観劇後に気合があったときだけ書きます

宝塚雪組 ブロードウェイ・ミュージカル 『20世紀号に乗って』

20世紀号の好きなところを答え合わせする会場のうちのひとつはこちら!

 

 

 

シャンパンが流れる小川よりもロールスロイスよりも豪華で、何もかも最高にグレイトなミュージカルが終わってしまいました。

なんて素敵でなんて素晴らしい瞬間に立ち会えているのかしら、と強く感じた思い出を際限なく反芻したり(いついつまでも 忘れはしない〜♪)と歌いつつ、なんであのひとを行かせちゃったのかしら……とのろける相手がいれば、バーンと扉をあけて20世紀号が戻ってきてくれるのかな?!なんて誇大妄想にふける時間もたっぷりあるのがあまりに寂しい。

望海さんの千秋楽挨拶のとおり記憶は美化されるけど、そうやって変化していく記憶も含めて自分だけの大事な生の思い出だなと思う。といいつつ、いつかしれっと円盤化しても誰も怒ったりしないから!頼みますよ!!とも思う私の中でそれぞれの派閥が大乱闘を繰り広げるくらい、駆け抜けていってしまったものに心を引っ掴まれています。しかし円盤になったところで、もう生で観劇する機会は巡ってこないのだからという事実をひとつ胸に置く…

渋谷に通い詰めた日々が終わってしまった喪失感を埋めるための記事です。

 


20世紀号という作品の魅力は?と考えたときに、楽曲と物語が緊密に絡み合って、テンポよくたたみかけるようにゴールに向かってひた走る心地よさ、という答えがひとつ浮かぶ。

観客にとってわけもわからずの疾走じゃない。もちろんそれが魅力的に見える作品もあるだろうけど、到着地までの所要時間(シカゴからニューヨークまで16時間!サインするには短すぎる)、達成したい目的(サインしてリリー!)の難易度(同じ列車に乗り合わせる情報を盗み聞きでしか入手できないほどに疎遠and険悪な人物との契約)と切実性(借金の明細書の山、リリーへの愛)が物語の中で明示されていることによって、観客は安心して、オスカーがリリーからサインを得ることができるかハラハラ見つめることができる。ことがうまく運ぼうとするたびに、あるいは最悪の状態に陥ったときに乱入する個性豊かな面々も、ただ魅力あるキャラクターであるだけではなく、思いもよらない形で物語を押し進めるための重要な役割を果たす。

話の展開、シチュエーション、テンポでこんなに笑いどころをつくるミュージカルコメディを見たのは、20世紀号が初めてかもしれないと思った。


観客をおいてけぼりにするのではなくて、きちんとした段階を踏んで、でも目にも留まらぬ速さで完成してゆくパズルの、ピースがはまる経過を全部見せつけられているようなきもちよさ。ひとつひとつピースを埋めているから完成しているのはわかるけど、わかるだけで同じように手を動かすことは絶対無理。


そしてそのスピードにためらいなく身をゆだねられたのは、緻密に組み立てられた物語や楽曲を舞台上に立ち上がらせた演者の方々の力によるところが大きい。出てくる人たちみんな元気で厄介だったので椅子に座っているだけでも疲労がすごかった(疲労は禁物ですよ!)けど、見ている側もそれくらいパワーを使わなければ、演じている人たちに申し訳が立たなかった気もする。パワーはチャージされたのか吸い取られたのか、渋谷の雑踏に霧散していったのか。

そんな舞台で個性豊かな役を演じた方々の中でも、二本柱であるふたりと、その役についてまず思い起こしたいと思います。


望海さんときほちゃんがオスカーとリリーとしていきいきと活躍する姿を見ていて、劇中でのオスカーの台詞「私が見たいのはきみが20セントを返せと叫んだあのときの炎だ!」(私は彼女らのバルカンではないが…)をたびたび思い出さずにはいられなかった。

それぞれが単独で中心となって活躍する場面も大好きなのは大前提として、ふたりとも登場した場面での、むしろふたりしか舞台上に存在しない場面での、ふたりの力が拮抗しているからこそできる歌とお芝居での激しいぶつかり合いがたまらなく好きです。そんな彼女らの姿を見たのは幸運なことに今回が初めてではない(ひかりふるの焦燥と葛藤を思い出しつつ)。でも同じ空間にいて、本当に喧嘩をしている設定で、正面切ってばちばち火花を飛ばすのは初めてでは??

1幕最後の「手に入れた!」「失った!」ノブをひっ掴んで扉の向こうとこっちで引っ張り合う、豪速球が目の前をヒュンヒュン飛びかうようなふたりの掛け合いの楽しさに、2のあとにゼロが7つついた小切手を見せられたのと同じくらいでは?と思うほどの多幸感に満たされて、くらくら目眩がしました。


「このままじゃ君は場末のクラブのピアノ弾きダーーーッ」

「あんたはその前で野垂死によ〜〜〜〜〜ッ」

(興奮が頂点に達する台詞の応酬)


のぞみさんときほちゃんのケンカップルとか見たくないわけなかろうて?!(生田先生は見られたのか勝手に心配をしている)。劇場での人生を授けられたふたりに、こんなに力をめいっぱい出し切るような作品が巡ってくるなんて!!


そんなふうにピンと釣り合うふたりだからこそ、オスカーとリリーが同じくらいの熱量でけんかをしたり、同じ芝居のモチーフにふたりだけピンときてしまうところで、この人たちは仲違いしているけれど、根本的にものすごく気があうし、まだ惹かれあっているんだってことを示唆しているんだな、と理解できる。リリーが契約書にサインする=オスカーとよりを戻すことをあんなに迷うのは、自分の中にすでにちらついている火に薪をくべてぼーぼー燃え盛る炎に再度身を投じていいか、オスカーに惹かれるからこその逡巡で、そのためらいを大げさに描くから、一層ふたりが根底では通じ合っているのが透けて見えて、あの結末にも頷けるのだと思う。

加えて、リリーがオスカーに惹かれるのは恋愛感情だけでなく、彼が手がける舞台、仕事のパートナーとしての情熱の比重も高いんだろうなと、即興・マグダラのマリアの受難を演じるふたりの、もはや何者も間に入り込めぬ勢いからも読み取れる(「市場でオリーブを売るの!」「ハッハッハッ!ローマ帝国の半分をそなたに授けよう〜〜」)。あらゆる情熱の方向性、重量が近しく、渾然一体となっているふたりの雰囲気が、恋愛関係にある男女というだけじゃなく、共闘する戦友ともとれるから物語として面白いし好み。諸君!が口癖のおじさんも観客の生の反応がなければ生きてゆけないタイプで、互いが互いを観客にして罵ったり賞賛したりしているのが一番幸せなんだろうなと思う。

しかし回想シーンで煙草を喫みながら待つオスカーのリリーを迎える「遅かったじゃないか」の声と表情がとても柔らかで、待たされたことを楽しんでいるようにも思える様子、彼女をとりまく状況への理解にラブラブ期の片鱗をみて、やっぱりこの話盛大な痴話喧嘩じゃーん!って当てられて倒れたくもなる。

オスカーはリリーにいったいなにをしでかしてしまったんだろうと思うけれど、そこは物語の中では明確には描かれていない。しかしふたりが顔をつき合わせるたびに起こるいざこざ(お互いを追い詰めるまでやりあわなければ気が済まない、爪と牙、コブラマングース!)の様子に、この人たち、大したことない話でしょっちゅう大喧嘩して絶交してはまたよりを戻して、を繰り返してそうだなと容易に想像がつきもする。

 

オスカーについて

のぞみさんのオスカー、自信たっぷりだけど結構小者でそこが憎めないベネさまみたいかなと想像していたら、全然違っていた。舞台の上でののぞみさんは陰キャラの方が圧倒的に似合うから、挫折感に溢れてどことなく影を背負っている人が当てられる回数が多いんだなと思っていたけど、オスカーは生命力にあふれていて殺しても死ななそうだし、底抜けにネアカ(ないない、俺たちより長生きするタイプだぞ byオーエン)。列車の側面にしがみついて登場して帽子を飛ばすトップスターの姿に、予習を何もしていなかった私は素直に度肝を抜かれた。

押し出しの強いおじさんの面倒くささにあふれていて、初日は、これはほんとうにのぞみさんか…?いやのぞみさんの顔をしているが…?と戸惑うくらい動揺した。年齢を重ねた渋みが魅力の男役像を確立しているのぞみさんが、精神年齢低めのめちゃめちゃかわいいエリックをやった後に、こんなになさけない面をさらけだすおじさんくさいオスカーを演じてしまう振れ幅の不思議……と天を仰いだけれど、回数を重ねるうちに、よくよく考えればこの暑苦しさは好きなものに向かう時ののぞみさんに酷似している?!と気づく。

 


自分たちを三銃士!と括って剣を抜くポージングがお決まりなところ、そもそも三銃士というたとえに、愛読書に確実に歴史小説をあげそうなおじさんを見た。絶対にからみ酒だし、若者に説教しそうだし、これはもう一緒に働くのはむり……と思いつつ、オリバーとオーエンに同情しつつも、そういう、身近にいたら疲れる人が舞台上でいきいきとする様を見つめるのは物語を楽しむ醍醐味だ。つねにフルスロットル、ミュージカルだから歌があるんじゃなくて、自分の登場や幕引きに耳目を集めるために実際に歌い出してしまいそうなはた迷惑な性格。結果的に台詞とのつなぎの違和感が薄くて、そういうキャラクター設定も作品を構成する一部なんだと思った。

鏡を見て身支度をするとき、自分の顔をさわるのに手のひらを反らせて指先を使わないのがやたらとおじさんじみて見えてくせになるオスカーしぐさ。キザったらしいしぐさは時折見せる年輪を重ねた男の顔と紙一重。オスカーというはちゃめちゃな人、たぶんオリジナル版ではそれほどかっこいい役ではないのでは?と思う。

たとえばブルースちゃんとのマッチョソング(お前は男の憧れ)、2人とも本当にリリーがいないと困る(生活資金的にも)切実性に溢れてるのが恋愛最重要視してる世界線ともまた一味違った世知辛さがあっておもしろい。男らしさの型にはまった男性像を笑い飛ばす場面を、男らしさの型を表現することでかっこいい(とされる)男性を演じる宝塚の男役がやるのって、やり方次第では諸刃の剣だなと思うけど、おもしろさの中に格好よさが共存して見えるのは、場面の作り方の緩急と、男役としての土台が確立されている男役が演じているからだと思った。役としての役割をはみ出さない範囲でオスカーが格好良く見える瞬間があるのは、根底に男役としての魅力があるからこそなんじゃないだろうか。20世紀号にかぎらず、のぞみさんの男役の中にそもそも格好よさとおもしろさが自然に共存している説も。

そしてミュージカル作品としての見せ場という意味でも、リリーの場面の華やかさに比べて、三銃士たちが暑苦しく立ち回る場面は絵面としては一見地味に見える。特にリリーによるバベット即興上演大盛り上がり!の直後に配置されるとあまりの落差が際立つ、たそがれゆく三銃士の哀れさ。けれどそんなオスカーの人騒がせな誇大妄想爆発シーンを、力技で手繰り寄せて見せ場にするのもスターの面目躍如たる場面なんじゃないかと思う。気迫と歌声にも圧倒されて椅子の背に張り付けられた。ブロードウェーの王様だ!!(拳をふりふり)

好きな場面がありすぎるので以下箇条書き。

 

  • アルカポネさんとの再会…!ただ通り過ぎるだけで一言も喋らない、あの人は!?とか説明台詞が一言も入らないさじ加減が粋だと思った。いまののぞみさんが演じるアルカポネを想像してみる。シカゴとのご縁…
  • ヴェロニカで花束を持って登場する横顔
  • オリーブのグラスの上で手が重なったときの表情と「失礼」が繊細な大人の対応なのでとてもずるい。
  • リリーの部屋でソファに腰掛けていたオスカーが、「あなたとは何もかもが違うの」と歌いながら背もたれに乗り上げるみたいにして上手に立つ(ダブルミーニング)リリーの勢いに気圧されるように、身体を傾げさせている姿からにじみ出る色気も。
  • 「君の才能もわからない連中」ってリリーに言うオスカーの君のことをわかっているのは俺だけ感が本当にずるいし二人称が「君」なのも卑怯。
  • オスカーの鼻に付くおしゃれなおじさん振る舞いに騙くらかされるけど、オスカーのスーツの着こなし本当におしゃれだし、おしゃれに見えるのはのぞみさんの補正がいつもよりすっきりしているのもある……ベストだけのとき本当に細くてびっくりしたけど、今回めちゃめちゃ動いて汗かくからあんまり着たりまいたりしていない…?
  • リリーに呼ばれて特別室Aでブルースちゃんと顔を付き合わせたところの表情、不機嫌が前面に出ると突然苦みばしったイケオジになるから、さっきまでのおかしい言動のおじさんが隅っこに追いやられて心の定位置が定まらないのでめちゃくちゃ疲れる。
  • ハローミスターマネー!で「夢のよう…」とか「たまらない…」ってほほえんでるきもちわるさと、花婿衣装でいきなりリリーに男役のキスするオスカーおじさんのギャップを永遠に反復していられる。
  • ミスターマネー!の途中でプリムローズさんの手をとってダンスのリードをするところの年配のご婦人に見せる丁寧さやさしさ
  • サインしてリリー!はオスカーの「契約書〜〜〜〜!」からのソロが特にめちゃくちゃ好き。あまりに朗々たる歌声!
  • サインして!リリーの最後の大合唱で、右手をポケットに突っ込んだまま身を反らして左手で何かを指し示す、みたいなキメポージングひとつとっても、男役のスーツの着こなしと所作がきまってるともうめちゃくちゃ格好よかったりする。
  • タイムズスクエアの裏で石を投げつけられるところのみじめさ、一発石が当たったときの悲鳴までやって(細かい)哀れを誘う姿が、映像でしか見てないけどびんちゃんとかジミーをやった時に培った引き出しなのかなという話を友人とした。石を投げないで!やめて!って哀れみを求めるときの子犬みたいな眼やめてほしい好きになっちゃうから…
  • フィナーレの一列になってタップするところで2人だけ前に出てデュエダンでよくある、きほちゃんが斜めに反らした背を支えるときののぞみさんの眉間のシワに心がぎゅっと挟み込まれてかえらない。


リリーについて

リリー・ガーランドときほちゃんが出会った奇跡を誰に感謝すればいいの??このパーティの始まりを誰に祈ろう?となにかに膝を折って首を垂れたい気持ちになった。

すでに劇場での人生を謳歌するきほちゃん演じるリリーが、同じく以下略、なのぞみさん演じるオスカーに「劇場での人生を君に授けよう」と言われる場面に何かを見出さずにはいられない。でもリリーが見出されたポイントが大女優にもくってかかれる迫力、自分をはっきり主張する意志の強さを買われて、というのがもうたまらない。「何度だっていってやるわ!あんたが音痴なのっ!」「クビにするならクビにして!でもいただくものは、いただいてくわっ!」「待って!」(全てジェスチャー込みで)インディアンの乙女の嘆きの、ピアノの伴奏ともに流れるようなきよらな歌声も。オスカーと一緒に彼女の背後で拳を突き出したり拍手をしたりしたい。(丸めがね姿もかわいいし、すでにきらきらラメがのったまるい爪も)

大女優どころか誰であろうとおかまいなし、それが主演男役相手であっても自分がいやなことにNO!を突きつけられる娘役の役がいきいきと描かれている作品って、見ていてこんなにスカッとするんだなあと思った。そうね、待って〜♪のメロディの包み込むような美しさにうっとりしていたら、絶対ありえないわ!の鋭いはねつけに頬をピシャリと叩かれる。その緩急に毎回メロメロだった。耳栓なんてもったいない!(アグネスさん)ブルースちゃんと目のやり場に困るほど熱烈な抱擁とキスを交わし合いながらも「私は自分の好きなようにするの」ときっちり釘をさす彼女の譲らなさにいちいち小さく拍手したくなる。

しかし一方で、自分が仕事できすぎてしまうがゆえに(??)ダメな男に入れあげてしまう、というのにもめちゃくちゃ説得力がある。「ハリウッドに手形を残し!」の掌突き出すジェスチャーが勇ましいのに、どう考えてもついていったら苦労必至なオスカーの告白「今の俺にあるのは夢〜」(だけ)にちょっとよろめいてしまうだめんずぶりの愛おしさ。

マックスを張り倒しての「だけど、他の人が持っていないものを持っているわ!」をひと呼吸置いてから、それまでより落ち着いた声で言うのが好きだと思っていたけれど、他の人が持っていないものってほめる意味でなくても使えるなと気づいて、とてもリリーらしくて余計に好きになる。(落ち目の人を蹴落とすなんて…)

そしてショーアップされた場面を一手に引き受けるリリーが舞台上で衣装をパッと脱ぎ捨てて華やかな(?)姿になる鉄板演出にはやっぱり高揚してしまう(ex.ダニー・オーシャン、バッディ)、フランスを救いし乙女・ヴェロニクの作品再現(??)場面。のっけからの歌声と笑顔の眩しさとのびやかな手脚に、お披露目全ツ初日からショーでこんなに弾けてる娘役さんいる?!と驚いたときの記憶が蘇る。フランス国旗の下から起き上がる構図も含め、こんなにきほちゃんに似合う役ある?!と1幕前半ですでにくらくらとした。ここからフィナーレまでにっこにこの笑顔のリリーを見ることはほぼないので、きほちゃんが歯を見せて笑う時、上唇が描く漫画みたいな弧のパワーも充電。

しかしその後も怒涛のように押し寄せるリリーの大活躍場面にお腹いっぱいにならない、まだください!というところでやってくる、2幕終盤のバベットの即興上演!きほちゃんのまろやかな声で名前を呼ばれたり紹介される登場人物は幸せでは(ex.ロドニー、ナイジェル、マックス)と改めて思った。お酒を、煙草を、と上手下手にふらふらとさまよいながら、強い光に照らされては「我が罪を!」と懺悔する、その切り替えの巧みさに見ているこちらが目を回しそうになる。

「マァックス!やるわよ!」「ダダッダダッダダッダダッ、…マァックス!」(握りこぶし)二度目の「マァックス!」は何度聞いてもそうよこれこれ、といっしょに心の中で拳を握っていた。「この脚本(ホン)大好きよ〜」「ダダッダダッ」「きってきって刻んでやるわ」のリリーにスカッとした気分にならない人なんている?ダダッダッダッダ・堕落!のスタッカートのきもちよさ。最後の土日で2回目の「マァックス!」が初めて聞く声音、拳が入ってない抜け感、しっとりした色気を含んだ歌い方になっててドキッとした。

オペラグラスでリリーを見るか引きでみるか毎回悩むくらい、後ろの紳士淑女の皆さん、上手下手の銀のお盆持ったボーイさんたち(グラスもボトルも倒れない)、ロドニー、ナイジェル、マックスのフォーメーションとそれぞれの踊りが合わさっての全体の迫力がたまらない。それでもなおリリーが見たい!と思うこの場面の視線移動の悩ましさったらない。

日程後半になるにつれて、歌の勢いの増し方と反比例するように、役柄として大事にしている、真剣に聞かせたい台詞は一呼吸おいて、間のあけ方をさらに大事に聞かせている気がして、ジェットコースターみたいな構成のミュージカルだけど力押しだけじゃなく緩急がないと成立しない作品なんだなとしみじみ感じた。

 

羅列していたらきりのない好きな場面箇条書き

  • オスカーリリー推しだけど、ブルースちゃんとのいちゃつき全般も好き。幕末太陽傳のときから、さきちゃんとふたりならんだ絵面がすごくかわいい。しかしふたりの恋愛が絡むお芝居の、のぞみさん相手とは違う、ふれあいのなまっぽさにワーワー!と顔を覆いながら指の隙間から見る、みたいな瞬間が時々あって、オスカーに目撃されるふたりのいちゃつきアドリブには毎回ドキドキしていた。リリーガーランド駅に到着〜〜♡♡はアウトでは?!と初日に友人たちと大盛り上がりしたら、翌日にアドリブ場面と知ったときの再度の衝撃(大好きな場面です)。どれもこれもツボだったけど、ガウンを脱がせたら形勢逆転して、リリーが「がおー!」ブルースちゃんが「こわーい♡」ってなるやつが一二を争うくらい好きでした。
  • 劇中のデュエダンパロのようなデュエダンで、頬?首筋にキスされて、ハッ!って文字をバックに背負ってそうなリリーのハッ!とした顔
  • 何もかもグレイト!から始まるふたりのけんかソングはもうここと区切れないほど全部好き。
  • 「見世物だよ!」(にせものかもしれない)ってオスカー像を掴んでちらつかせるオスカーに飛びかかろうとするリリーの、ジャンプして曲げた脚の地面との並行具合。映像化していたらスクショを撮って角度を測っていた。ぶん投げる時にちゃんとワインの瓶に持ち帰るリリーのギリギリの理性。
  • ローマ帝国の半分を授けようとするネロ(演じるオスカー)から「はいここで君は世紀の名台詞を?!」と世界ふしぎ発見よろしくぶん投げられてあの台詞を返せるリリーの、いっそスーパーヒトシくんしか持ってない勢い、名古屋のお城の天井が高い理由を当てられたきほちゃんに通じるところがある(??)
  • まってて!すぐにサインするから!のサインの手つきのしなやかさ
  • デュエダンのプラチナブロンドが肌の色にはえてるのと、髪の畝の付け方(細かい)

 

ブルースちゃん

さきちゃんのお金を稼がない役が好きなのかもしれないと気付いてしまった…(ex.幕末太陽傳)登場からもうあほあほな雰囲気が出すぎていて、リリーの真似してお色気ポーズするさまを見て彼を憎める人などいるのだろうか??ピンクのスーツなんて冗談みたいな衣装を、冗談みたいに長い脚で着こなすスマートさはあるのに、あまりにもなにもかもがだだもれで愛おしい。

ブルースちゃんによろしくされてしまったので、よいパトロンに恵まれてほしいと祈るしかない。あんなにでかいブロマイドをジャケットの内側から取り出す仕草がすごくスマートだけど、4枚ぐらいぶら下がってるやつも自分でこさえたのかなと想像したらまぬけでかわいい。

そしてこの作品通してアドリブがリリーとブルースちゃんがいちゃつく場面だけ、しかもそれをやってるのがきほちゃんとさきちゃんってことも(なまっぽさにはらはらするのは別として)見ていて圧倒的に心が平和だった。ふたりのことを森のかわいいなかまたち的な存在と思っているふしがある…

こいつはすげぇやぁ〜〜!って興奮してボーイさんの持ってきたお盆の上のカクテルグラスひっくり返して、ぶどうグミもといオリーブを散らかすブルースちゃんあまりにもキャラに合いすぎてアクシデントじゃないみたいだった(かわいい)。かたしといてね、っていうリリー込みで!

オスカーのくさい芝居にオイオイ泣いてて根が素直なところも可愛いし、友人が教えてくれるまで気づかなかったけど、オリーブ即売会場面の神妙さがくせになる。マックスが殴られてるところで、なぜかブルースちゃんも頬に手を当ててるのがキャラとしてブレがなくてツボ(「ちょっとそれどういう意味?!」「あんたは黙ってて」で再度頬に固定される手)

ラスト、フィナーレで20世紀号に手をかけて登場するさきちゃんはめちゃかっこいいけど、ブルースちゃんは多分ハローミスターブロードウェイ!するほどブロードウェイさんに世話になってないしなれる予感もないからちょっとおもしろい。

 

オリバーとオーエン

三銃士のうちのふたり、会計係と広報担当。丸メガネ七三分け蝶ネクタイの方と、懐にスキットルを忍ばせている方。彼ら無くして、作中のぽんぽんとテンポよく運ぶ会話は成り立たない。

外見以上に行動に現れるふたりの役割分担。ボスの勢いに合わせて剣を抜いたり研いだり泣いたり笑ったりするのに、オリバーとふたりきりになるとけろりとしているオーエンは感情労働にめちゃくちゃ長けている。オリバーにストレスを溜めない方法を教えてあげてほしいけど無理なんだろうな。「また例によって例のごとくね」とリリーにこぼすオリバーの口調から、なんで自分はあんなパワハラ上司から離れられないんだろう?と自嘲のニュアンスがにじみ出るのがいい。離れられない一番の理由が給料の未払いってのもまたきれいごとで終わらない現実味があって、肩のあたりに漂う哀愁に、同情混じりの笑いが生まれる。

大勢出てきてのドタバタも楽しいけど、三銃士揃った場面のどことなく漂うトホホ感、オリバーオーエンの同列のふたりだからこその気脈の通じっぷり、阿吽の呼吸「ボス、もう死んだか?」「いやまだだ」が見られるのもいいなと思う。

サインしてリリー!の扉をあけて迎えるオリバーとオーエンがビックサンダーマウンテンの途中で出会う森のどうぶつたちみたいなかわいさだった。(そして滝から落ちる)

 

  • 不死身のオスカー・ジャフィ、序盤でオスカーの手刀を回避できる要領のいいオーエンと、逃れきれてないオリバーの対比。
  • 瞼閉じれば聞こえてくる〜♪って真剣な面持ちで歌ってるボスの隣で、左右の耳に交互に手を当てて、聞こえないけど?えっ?ポーズのオーエン。
  • エアー借金の明細書をわたされて、それまでのノリを崩してチベットスナギツネみたいな胡乱げな目つきになるところ。


ジョンソン先生

あすくんは間の天才か?!あと丸メガネがめちゃくちゃ似合う。アルカポネに引き続いて士業が似合う人だと気づいた。ビジュアルの話だけではありません。

ジョンソン先生が「お読みくださーい!」って歌い出した瞬間にもうおもしろくなっちゃうのは、車掌さんの翔くんの前フリもあるけど、あすくんがお医者さんが専門でそれ以外のことはてんでわかりません!演技とか初めてやります!よろしくお願いします!な佇まいがあまりにもできすぎているのもある。「これなら私にもできそうだ」をもっと胡散臭くやって笑わすというプランももしかしたらあったのかもしれないと思ったけど、それは中の人がなんでもできることを知っていてこそ面白いのであって、何にも知らない人が見ても面白くつくれるあすくんのすごさ…このジョンソン先生は芝居のことは本当に何にも知らない。

一回首を振っただけで、これでいいかな?みたいにオリバーオーエンに合図しようとして、首をブンブン振られてもっと悲しんで!と演技指導されてるジョンソン先生の戸惑い顔、目の下に唾つけてひっくひっく泣き真似をし始めるところ、オスカーのくさい死に演技が進行するにつれて、そばでブルースちゃんがあんまりオイオイ泣きだすのにびびってるところと、オスカーとリリーの抱き合う姿にこりゃまた一本取られたな〜って頭に手をやって扉から出て行くところまでぜんぶ好き。オリバー一回だけ起き上がってジョンソン先生見てるけど、その一回じゃ彼の面白さはわからないよ…!(謎の優越感)

「当たるぞ〜〜〜〜〜!」と「いま忙しいんです!」「過労は禁物ですよ」も好きで、一番に迷う。


マックス

あがたくんのでかさと勢いがとても映えるマックスの登場場面(アクトワン、ツー、スリー!)と、バベットの再現場面でリリーが「マックス!」って勇ましく呼んだら散歩に行く大型犬みたいに飛び出してきて、全身目一杯使ってしゃかりきに踊るのとてもかわいい。


プリムローズさん

プリムローズさん

かわいく歳を重ねるってこういうことでは?!と非実在おばあちゃまぶりがめちゃめちゃチャーミングなレティシア・プリムローズさん演じる京三紗さんなくして20世紀号は成り立たなかったのでは?

ほら、あそこにも明かりが!と朗らかに始まるのに、…人の数だけ欲望が、とあの声音で発される俗世の言葉と眉をひそめた表情にドキッとして、でも一緒に行進したくなるような音楽の軽快さにのせられて軽率にrepentを貼られたくなる。欲望にまみれた登場人物たちとプリムローズさんの対比のおもしろさ。

ミスターマネーで、サインの終わりに小切手をタンッとペンで突くところ、ゼロを付け加えた小切手をなかなか手放さないところ、ブロードウェイのネオンサイン輝く下で三銃士とステップを踏む姿のかわいさ。

そういうところを経ての「婦人はどこだ?!」は初日、このネタで落とすのか、とびっくりして、そこまで続いていた楽しさが一旦ストップしてしまった。人間の老いを軽々しくおもしろく扱って欲しくない、という気持ちから、描かれ方についてじっくり考えるまでたどり着けなかった。

いまでも表現方法として適切なんだろうか?と思わなくはないのだけど、オリジナル版では演出はわからないけれど、歌詞がもっと直接的で、それを「婦人はどこだ?!」におさめて設定もふんわりさせたことは宝塚でこの作品を上演する、という前提で考えたとき、いちばん納得がいく潤色なのかなと思う。直接的な言葉を口にするのは、もともと柄が悪いオーエンだけ、というのも絶妙だった。観客におもしろさとして提示されているのは、小切手がぱあになった三銃士たちの落ち込みのほう。

京三紗さんのあのかわいらしさが、駆け抜けていく列車に乗った姿もいたずら妖精かな??みたいに見せているのもとても大きい。加えてまちくんの甥という配役の絶妙さよ…!あの真剣さで迫られたら、変なふうに茶化せない。そしてあの5センチくらい空に浮いていそうなレティシアさんなら元気よく「塀を乗り越えて」しまうこともあるかも、なんてうっかり想像してしまう。

マフラーを編んでいるのは友人に言われて初めて気づいたけど、先の場面で長くなって出てきているのも知って小技が効いているなと思った。糸をかける手つきも本当に編んでいるみたいでおもしろい(しかし地の部分の色の毛糸玉しかくっついてないことを確認)

 

 

オスカーはあまりにのぞみさんにはまっていて、リリーもきほちゃんにぴったりで、これ以上ふたりに合う作品にはもう二度とお目にかかれないのではと思うけど、そこを軽々こえてゆくのが宝塚の座付き作家のあてがきの力なんだろうな〜と思いながら西に向かって念を飛ばしています。