TROIS

観劇後に気合があったときだけ書きます

ダンス オブ ヴァンパイア 12/4 マチネ


12/4マチネに観劇してきたダンス オブ ヴァンパイアの感想と思いきや育アルフレート時々教授についてのゆるゆるのよしなしごと。なにもかもがおそろしくゆるいです。


思い返せば、元々りおくんのアンジョを見たい一心で観劇を決めた2回目のレミゼで「なんだよふざけて〜」と歌いながらエポニーヌの頭を抱えていた本でこつん☆と叩いた、80年代少女漫画のヒーローじみた行為をする育マリの姿に「燃える〜太陽の矢が胸に〜」となったのがいくさぶろうが出ている舞台を観るようになったきっかけでした。嵐が丘、ロミジュリ、ときての今回のTdVだったので、板の上での彼を観るのはこれが4役めだったのですが、すとんと落ちるきっかけとなったマリウスは別として、ふたつみっつと見続けていくうちに、だんだんこうくるんだろうな、というのがわかりだしてきて、彼が”そこ”に佇む姿に安心感を覚えこそすれ、初見時の新鮮な、おお!という心の動きを感じることはそこまでなくなってきていたんですね。いやそれはロミジュリ見すぎたせいでしょう?と言われたらぐうの音もでない。もちろん彼の演技する姿が好きなことには変わりなかったのですが。
それゆえにいつものいくさぶろうを観るつもりで気軽に向かったふかふか赤絨毯が敷き詰められたお城の舞踏会で目を見張ったのです。この子どこの子ですか!?と。あんなに情けない声を出して顔をしておろおろおろおろしてると思えば、意中やそうでない女の子にでれでれしたり、時々えっへんと得意げな顔をしたり力尽きて転がったりする、くるくると表情を変えるへたれな彼の姿は観たことがなかったので。アルフレートがそういう役、といえばそうなのでしょう、そうなのでしょうけれど。

今まで見たことがあるいくさぶろうが演じてきた役と毛色が違ったから、へたれのアルフレートという役が単純に自分のストライクだったから(あり得ると思ったからこそ浦井くんも観たいのです)、両方がかけ合わさった相乗効果等、様々な理由が考えられるので”あの役を演じていたのが彼だったから”と一度きりで断定はしかねるのですが、それでもわたしは『いっくんが演じるアルフレート』をかわいいかわいいと愛でたい。「プロフェッサ〜〜〜〜〜…!」と下手通路を通って舞台に出てきた瞬間に、こ、これは…!と背筋を駆けあがった予感は正しかったのだということがあんなにも証明されてしまうことになるとは。「かわいい」という感情を放出する蛇口の栓がさいきんゆるっゆるで、もう壊れているのではなかろうか、と感情をぐらぐらと揺すぶられるのが楽しくもありまた怖くもあり、なのですが、やはり「かわいい」と一口にいっても種類は様々で、石井マキュにかける「かわいい」という言葉と今回の育アルフレートにかける「かわいい」という言葉は全然違う。ぐるぐる考えた末行きついた結論としての全てを愛おしく感じる「かわいい」ともう見た瞬間から放出されている抗いがたいなにかに絡め取られてしまう「かわいい」。どちらが業が深いかと言われればそれはもう前者なのですが、今回の育アルフと同じ愛で方をしていた対象はなんだろうなあと振り返ったところ、三銃士の今陛下という結論に達しました。狩猟で雉を見事打ち落として喜びを隠しきれない陛下のそばに駆け寄って「お見事です!」と讃えたかったし「田舎で騒ぐのは大好きだ〜」とのほほんとはしゃぐ陛下はずっと田舎にいればいいのにと思っていたし、今陛下がほんとうにかわいくてすべての厄災から遠ざけたいし健やかにお過ごしであればわたしも幸せです、という気持ちになっていて、あれ、こちらもそうとう病が深かったです……。陛下の銃士隊に入りたいと、ダルタニャンになりたいと真剣に願ってしまう成人女性とは。
話をすぐそらしてしまうことに自覚があります。

そういうわけで、ただ舞台の上で走ってこけてよろよろしてふええんと今にも泣きだしそうに「もうむりですう〜〜〜〜〜……!」と声をあげる育アルフレートの一挙一動にただ心を奪われておりました。正直に白状してしまうと、トーマの心臓ポーの一族ギムナジウム万歳!な幼少期からのすりこみが根深く、柔らかそうなくるくるパーマの茶髪はもちろんのこと、あのおリボンタイに白シャツベストにジャケットにきちんとプレスされたスラックス!げにすばらしきはフォーマルスタイル!(本だ!のごとくお読みください)と信じて疑わぬ人間なので、かつ読むのももちろんのことながら本という質量をともなう物体に惹かれてやまない人間なので(ロコへのバラードの感想参照)、あの格好のまま伯爵の書斎で膨大な蔵書の山の中、一角にちんまりと腰掛けて本をふむふむと読む育アルフレートの構図がなんというかもう堪えられないくらいの様式美に私の目には映り、思わず額縁に入れたくなりました。伯爵さまと意気投合できそう。でも動いてた方が絶対にキュート!です。

フォーマルスタイルといえば教授のくしゅくしゅっと結んだタイもサスペンダーで吊ったズボンもクラシカルですてきだなと思ったのですが、禅さん演じるアプロンシウス教授とアルフレートの掛け合いや、ふたりが行動を共にする際のあの空気が大変ツボでした。冒頭宿屋での掛け合いもさることながら「すべて順調〜人類のために」でせかせかと動き歌う教授、その横でいちいち教授の真似を「ぼくだってできるもんね!」というようにするアルフレート、伯爵と息子の眠る棺桶が置かれた部屋に降りる際の一連のやりとりや、降りれなくなった教授を助けるつもりか、端からぶら下がって「うんしょ、うんしょ…」と横に移動し、教授のところにいきつくくらいの高さまで懸垂しかけるものの、結局力が足りずべしゃ!と落ちてしまうあのよくよく考えれば無意味な一連の流れ(もういっかい、ってかわいいけれど!かわいいけれど…!!)。そして結局伯爵と息子に杭を打つことができず、情けなくも逃げかえってきた反抗期の助手と彼を叱咤する教授の図。
あの力関係を考えれば絶対的に教授が上かと思いきや、意外と助け助けられ持ちつ持たれつな関係に見え、しかし完全に見捨てないまでもたまにふっと突き放すところがありそうな、そんないい性格の部分がちらほら見える禅さん演じる教授も好きです。こちらもアルフレートとはまた違ったふうで感情表現が豊かながらも、感情の波がどうやら一般人のそれとはまったく異なるタイミングで起伏を描いていそうな気がします。本だ!の絶品具合はまさに禅さんの歌声と楽曲と、更には舞台セットの相乗効果だと信じて疑わない。
カテコで紙でできた雪を、小トトロ中トトロがてててって歩いてる際に袋からどんぐりが点々と落ちてきてしまっているように、握りしめたてのひらからちょっとずつ零しながらてててっと小走りでセンターに出てくるアプロンシウス教授もとい禅さんもお茶目でかわいかったです。


観終わった後はずっとぶらさがりマスコット育アルフレートの真似を友人と交互にしては頭を抱える、の繰り返しだったので、もうそれこそトトロのどんぐりのようにわたしの記憶もぽろぽろ零れているようです。
しっくり帝劇に溶け込んでいるように見えたうつくしい馬場ヘルベルトや、伯爵閣下、そもそものストーリーについての所感はこの次に。