TROIS

観劇後に気合があったときだけ書きます

レヴュー・スペクタキュラー『SUPER VOYAGER!』

ショーの感想は、歌や踊りを表現する語彙がお芝居へのそれ以上にないので、「かわいい」「かっこいい」「おもしろい」「たのしい」以外の言葉が出てこなくて絶望することが多い。しかし記憶を縫い止めたい。そういう言い訳からはじまる記録です。


「SUPER VOYAGER!」の映像過多演出、甘ったるくストレートすぎる歌詞の数々に、私が宝塚で観たいドストライクなショーではない、でもこういうのもいちバリエーションとして楽しいな、くらいののんきさだったムラ初見を経て、
・あやきほ希望の歌
・組子があざやかカラースーツとドレスでひたすら踊りくるう群舞
・出所したて白スーツマフィアの情感たっぷり悲恋
花組育ちの本領発揮なオラオラギラギララテン
・生まれたてミッキーみたいなハットにステッキ白燕尾、センターの喜びにあふれたかわいいマスゲーム
・宝塚のジャニーズ(LDH?)
・柄物でもスーツはスーツ!マフィアというか昭和薫るヤクザもの男役フィナーレ群舞
・短いけどぎゅっとトップコンビを味わえるデュエダン
とこれだけ好きなものが詰まってるいるのに贅沢をいうにもほどがあるなと思い直しました。
加えて、冒頭の秘密航海(シークレットクルーズ)歌詞に、野口先生と私との(と書くのもなんともおこがましい話でもあるが)、のぞみさんで見たい男役の認識の違いを感じて、逆にそれが自分が見たい男役のぞみさんについて考えるきっかけになってよかったのかもとも思っている。のぞみさんへの当て書きというより、野口先生が、こういうのにきゅんきゅんする!という歌詞を欲望のままに書いただけかもしれないけど。けどというかたぶんそうだ。

 

▼オレとオマエの秘密航海
(オレがギュってあたためてあげるから)(いやなことはオレが忘れさせてあげるから)に、いやいやのぞみさんの男役が一人称「オレ」二人称が「おまえ」(しかしこちらもカタカナなのは…)なのはあってるけど、お申し出が手厚過ぎるのではとふきだす。想像するに、本来はもっとさらりと歌うにとどめておいたほうがいいこの歌詞と、歌声のどっしり感、持ち味のくどさが噛み合ってない。のぞみさんが歌うことで本来の意図よりこの「オレ」のサービス精神に謎の重みが出てきてしまって、面白くなっちゃうんだと思う。もっとさらっと現代的、アイドル的魅力のスターさんがやったほうがきゃーって気持ちになれる歌詞、というのは雪に異動してきた野口先生のミューズの銀橋ソロはまりっぷりという事例をすでに見せつけられているので、適材適所って言葉が浮かぶ。じゃあのぞみさんでどういう男役が見たいか、というとそれは他の場面でたっぷり見られるのですが!
加えて、あの帽子の目深さによる前髪の見えなさ、コートのシルエットが全体的な身体の四角さを強調していて、新人イケメン船長さんというより軍艦の総督みたいな貫禄をかもしているのも歌詞がはまらなく思える理由のひとつ。頼もしさがすごいのはすでにたくさんの荒波を乗り越えて大航海をしてきたからかな…
とかなんとかいいつつ、白いきらきらの制服に着替えてネズミの国のショーみたいな明るい雰囲気、口大きめ開けの笑顔できほちゃんと楽しげに踊っている姿はとてもかわいい。そこからの流れの希望の歌で、今年の幸運は約束された!くっついているときはいいけど、上手下手にあやきほが分かれるとわりとどちらを見ていいかわからなくなって動揺するくらい、きほちゃんのこともじっと見たい。

 

▼WINDー風に舞う雪ー
上手花道にせり上がってきた白コートの男に、これです!これが好きなんです!!と毎回血圧が上がる。花NWで好きだった井上陽水とガイズの場面を足して二で割った雰囲気。すぱっと皮膚を切り裂かれそうな壮絶な色気。肩にコートを引っ掛けて背中で語り、斜めかぶりのハットから覗く弾丸みたいな眼光、それを囲む真っ青なシャドウ、真っ赤な口紅の艶、男役の美学。ご存知でしたら説明する必要はありませんし、ご存知でなければ私、説明できません! 味わい方を知らなければちぐはぐに見える字面、このアイテムの組み合わせがなんでこんなに心を抉るのか。
宝塚を知る前は、背が高くてすらりとした人だけがスーツが似合うんだと思っていたし、もちろん脚がすらりと長い男役さんのスーツの着こなしぶりも眼福です(宙組を観るときにいつもその気持ちを噛みしめる)。でも身長がそこまでなくても、身体の厚みと肩幅がしっかりとあれば(そう見えるようにタオルで補正した)スーツが似合う身体ってつくることができるんだなとのぞみさんを見て知った。実際には身体は薄いし、肩も高さはあるけど横幅はない人だし。そしてもちろん男役としての立ち振る舞いも欠かせません!この場面の男役ぶりは衣装とシチュエーションと、それからヤンさんの振り付け由来。
せり上がりの横顔、くわえ葉巻の銀橋真ん中、腰を落として揺れる重心の低さ、ひとり肩で風を切りながら哀愁の2文字を背中にひっつけた姿も、マリアンヌと出会った後、彼女へ見せる愛情を感じさせる振りのさりげなさも好き。互いの片手だけ合わせて指を絡ませて、見つめあったままただ身体を揺らすだけのしっとりとした2人も、並んで揃いの振りで楽しげに踊る姿も、再開の喜びがひたひた押し寄せてきている心のあらわれに見える。
ひとがひとに対して抱く想いの深さが現れる、念が相手に向かってゆく一瞬を第三者として捉えたくて舞台を見ているんじゃないかと思うとき。三角関係ののち、逃亡する男か女が撃たれるか刺されるかして死ぬ、ショーのよくあるひと場面ではあるけれど、こういう短い尺のなかでも情緒溢るる空間を作り出せるところにぐっときてしまう。ラスト、たおれたマリアンヌを脚の間に引き寄せて、声を震わせての歌も、暗転直前にふっと視線を上げる表情もたまらない。もちろんのぞみさんだけではなく、この場面に出てくる人たち全員のバランスがよいのですが!
ナウオンで話していた、指先だけであーさを呼ぶなぎしょの微動だにしない横顔も、あーさとのぞみさんを引き離す最初の場面では袖にけてゆく直前、身体をぐいっと前方に傾げてメンチ切ってくところもめちゃめちゃ格好良い。とても真似をしたい男役仕草。
あーさは、のぞみさんと最初に並んで踊るところでの、再会の喜びにぱっと浮かべる笑顔になぜだか心を掴まれてしまった。のぞみさんとなぎしょの間で行ったり来たりする、間に挟まれてダンスするときのバランスがよく見える。後ろ向きでのぞみさんに寄りかかる、みたいな振りが好きです。
クラブの歌手のコマちゃんの歌声と存在のしっとり感も、あの空間構築に欠かせない。あの色っぽさはいったい。「おしまい!」の音の抜き方と情感を文字起こしする際は語尾につける感嘆符を斜めのフォントにしたいです。

 

▼BIG DIPPERー北斗七星ー
のぞみさんが元気になるスーツと心のなかで密かに命名したあのギラギラ衣装。袖フリルはありだけど脚フリルはあまり得意じゃない派なので、じつはムラ初日にせり上がってきたのぞみさんを見て、う、うわ〜〜〜〜〜!おいでなすったぞ!!と客席で仰け反りました。いまさら何を、往生際が悪いぞおまえ!という話だけど、宝塚オタクあるあるだと思っているこの、はたから見たらどれも同じくらい変なのにこれは無理とか差別化し出すよくわからない好み語り(ex.しめ縄をひたい飾りにするのはおやめになって)。しかし回を重ねるごとに、気迫に圧倒されてしまったのか、全身から放たれるオーラをとらえるほうに頭が移行してしまって、脚の裾がちょっとひらひらしてるとかそんな細かいことをあげつらっている場合ではなくなった。おまえは花男のギラギラオラオラのぞみさんが好きなんじゃなかったのか?!ハイそうです!
とはいえ、ラテンの場面を見ているときっていつも、面白さと格好よさのメーターの針が自分のなかでひとつの値で止まらず常にぶんぶん振れているので、東京初日に下手に踊りくるいながら移動しつつポーズを決めつつ力強くアドリブをキメているのぞみさんを見たときは、ちょっと元気がよすぎでは?!と面白さが打ち勝ちかけもしました。のぞみさんの場合トップスターとしてのサービス精神だけじゃなく、トップさんがこういうのやるのいいよね、自分もやりたい、みたいなヅカヲタ心発生な気がする。アドリブ不得手な人だけど「今日はなんの日」(ex.祝日、貸切公演)みたいな一発芸系は好きだよね、とか思った。でも楽しそうな姿は見ていて楽しいからありがたい。
金ピカのぞみさんが袖からぞろっと出てきた仲間たちと金ピカ踊りをした後(こう書いて勢いがCONGA!の赤ターバン場面ぽさもあるなと思った)、姐さんがおいでになるぞ!者どもはけろ!みたいに出てくる時と同じくみんながいっせいにはけて、音楽が変わって強くて美しいオスにしか寄り添わない強いメスみたいなひとこちゃん(女装)がシュッと出てくる場面も好きです。眼光鋭いひとこちゃんのうっとり顔と、両肩に手を当ててくるくる回るときに袖のフリルがひらひらするのがツボ。銀橋センターで上半身を仰け反らすときの脚の開き方が豪快なのも女装の醍醐味と受け取る。のぞみさんのひとこちゃんの扱いが、対男役だとそういう振付なのもあるだろうけど、終始オラオラって感じで容赦ないのもたまらない。リアル男性に壁ドンは求めていないけど、この金ピカのぞみさんが舞台上でひとをグイグイ追い詰める光景にはとても興味がある。
アーイ!で暗転、ようやくひと心地ついたところで、照明がついた舞台真ん中のディズニーパレードのフロートみたいな台からきほちゃんが登場してポーズキメながら掛け声かける流れの勢いに倒れ伏して、トップコンビ連携プレーの狩りか?!と疑う。ムラ楽は特にすごかった。ターバンも似合うしピンクのキラキラもとても可愛いのに油断すると捕食される。なんでもない可愛い笑顔のまま場を制圧する歌を響かせてくるので、攻撃力が高すぎるトップコンビそれぞれの仕事ぶりにひれ伏すしかない。きほちゃんたちが場をさらっている間に着替えたのぞみさんが、紫の衣装で銀橋に踊り出てくるとき、センターであんなに大きいかつ金色の装飾ついた羽を背負ったまま肩をぶんぶん動かして踊っていらっしゃるのを見ると、格好よさと美しさと面白さと肩の心配とをする気持ちが、再びモグラ叩きのモグラ並みに交代で素早くせり上がる。肩の動きとこちらの感情の波がシンクロ気味。

 

▼アンダルシアに憧れて
ジャニオタの方の間では定番曲らしいこの曲の歌詞の状況がいまいち掴めなくて、ググって解釈を述べておられるおもしろいブログを二、三読んでしまった。のぞみさんってキメキメのマフィアも似合うけど、アンダルシアとかボルサリーノって響きだけに憧れている、ヨーロッパの土地勘ゼロの昭和映画に出てきそうなヤクザも似合うひとだと思うんです。花NWで好きだった場面と同じ空気を感じる場面第2弾。衣装の薔薇柄のトンデモ感もあわさって、個人的にはこのフィナーレに歌われるアンダルシアの舞台は日本で、メトロのホームで待ってるカルメンは頭にバンダナ巻いてるストリッパーのデコちゃん(『カルメン故郷に帰る』で画像検索推奨)イメージ。「あんた何度アタシを待たせたら気がすむのヨッ!!……ヤダ、血が出てるじゃない…ッ?!」(キンキン声)みたいな。どこかかっこつけきれないトホホ感。でも時々キメてきたりするので油断はできない。
そもそも情熱の一夜の曲に合わせて銀橋に降りてきてゆるくステップ踏んでる姿だけでもう、ですし、スーツの形をしていれば色や柄を問わないことはファンシーガイOPのメイベリンニューヨーク配色がいけたことでクリアになっていた。ジャケットよりシャツの裾の方が長いのも見えてるけど見えてない。斜め被りのハットの下に覗く片目の瞼と目と唇のバランスの絶妙さ。羽山先生の基本の振りだけで構成されてるみたいな男役群舞めちゃめちゃぐっとくるよね?!って話を友だちとしていたけど、地引網っぽい振りとか、腕を思いっきり振り上げて飛んで着地した時に身体の力が抜けた勢いで頭上を見上げるみたいな振りとかがたまらんです。スタッガーリーの話の内容を説明するのに銀橋センターで格好良くしゃがみ込まないで?!ジャケット色っぽく抱いてるのにこっち見ないでジャケットに集中して!!ここのBS映像を一時停止したら、目を細めてニタリと笑った表情が山岸涼子絵だった。仰け反ってグラインドするときの視線の使い方も見ました???「第3倉庫に8時半」の「ハァン」も時間を伝えるのに何故そんなに色気が必要なのかわからないけどいい。

 

 

途中まで!(2018.1.5)